信楽狸

巨大な工場の中から寸分たがわない陶器製の狸が大量生産されて出てくるのかと思いきや、そうでもないらしい。家族経営のような零細陶器工場が作っているのだろうか。顔に塗られた表情だけでなく造詣も多種多様。


そんな微妙に違う狸がこれでもかと陳列されている。


親分のような巨大狸をとりまくように大小の狸。



中には、段ボール箱に入れられたままの「2級品」と札の貼られた狸もいる。この激戦区の中で、手にとって買ってもらえる「2級品」はいるのだろうか。信楽まで、アウトレット品の狸を買う消費者像というのがとんと思い浮かばない。



1級だろうと2級だろうと誰がそんなに狸の置物を買うのだろうか。買われた狸はどこに消えていくのだろうか。確かに京都や山科ですら玄関口に置いてある家を比較的多く見かける。しかし頻繁に買い換えるようなものでもなかろう。一旦、一通りの世帯に行き渡ったならば、2体目、3体目など買わないのではないのだろうか。しかし信楽窯は長い歴史を刻んできた日本6大名窯。無論、狸の置物ではなく皿や花瓶なんぞのほうが主製品なのだろうが、それでも膨大な店舗面積を狸の置物に割くからには、それなりの生産量なのだろう。


そんなに生産された狸はどこに消えていくのだろう。



「買っておくれー 連れ帰っておくれー」
「バリ島では変なブロンズ仏像買ったくせにー」
「タイでも真鍮のガネーシャ像買ったくせにー」


「にいちゃん、ひやかしかい」
「駄目駄目、こいつ、小遣い制導入されて購買力無いらしいから」
「サラリーマンの悲哀ですか」
「悲しいもんだな」