実光院

勝林院の僧房のひとつで、宝泉院や三千院に比べると特徴に乏しいであるとか訪れる観光客は少ないなどと評されていることも多いが、非常に好印象の寺だった。


欄間には江戸時代中期の狩野派の画家の筆である三十六詩仙画が掛けられている。それにはさほど歓心を得なかったのだが、庭の前に掛かる横長の天女画には引き込まれるものがあった。顔立ちは若く華やかなものではないのだが、古風で落ち着きがある。羽衣が空白の中にはためく絵の構成が良い。


契心園の池に反射する陽射しがキラキラと客殿の軒下に反射して長閑で温まる。客殿内を好きに撮影させてくれるのも写真好きには嬉しい。他に観光客が少なかったので、広々とした中で薄茶と菓子を頂き、ゆるりと庭を眺めながら寛げた。


ほかにも天台声明が今日まで伝えられており、日曜日は実際に声明を聞けるらしい。それ以外の日もスピーカーから再生された声明を聞くことができる。キリスト教におけるグレゴリオ聖歌のようなものだとのこと。ベトナムの寺院で聞いたような抑揚と旋律がある。


実光院は茶花が豊富に植えられた庭を歩くことができる。不断桜という非常に珍しい桜の品種が植わっている。紅葉の時期に開花し、冬を通じてぽちぽちと咲き続け春に再度満開になるという、秋から春まで不断に咲き続ける息の長い桜である。桜と紅葉を同時に楽しめる寺はここ以外思い当たらない。