西陣織工芸美術館 松翠閣

こんなことをいっては甚だ失礼だが、全く期待していなかった。ぐるっとパスという美術館割引冊子の10個目のスタンプを獲得するためでしかなかった。失礼な話だ。


それを嬉しい驚きで期待を裏切ってくれた。入館料なんと一人200円。それが割引になり100円。しかも非常に上品そうな方がたった二人のために懇切丁寧に説明して廻ってくれる。野村美術館や細見美術館よりも正直、満足度は高い。友人にお勧めの京都の美術館を聞かれたらまず当館を加えるだろう。西陣界隈は松翠閣、かね井の蕎麦、船岡温泉、さらさ西陣大徳寺と充実したコースが組める。




来年が兎年だからだろうか。暖簾は高台寺蔵の兎と蛙が戯れる鳥獣擬人画。


座敷には西陣織を屏風に張った見事な一品。反対側の襖にはこれまた西陣織の小倉百人一首が散りばめられておりなんとも雅。流れるようなかな文字が見事に再現されているのに感嘆。


金糸やプラチナ糸を縫いこんだ尾形光琳の紅白梅。


白眉は部屋半分に展開されるパノラマ巨大屏風。室町時代の作者不明の作を西陣織で織り上げたものだという。絹糸や蛍光糸が縫いこまれており、無段階調整の照明を徐々に暗くしてゆくと、ぼんやりと蒼白い波目模様が浮かび上がってきてなんとも幻想的。



さらに完全に照明を消すと絹糸の青白さも消え、蛍光糸の緑色が浮かび上がる。この仕掛けがなんとも新鮮で素晴らしい。


同様にモネの睡蓮、ゴッホの名作の数々が同様の手法で織られている。


廊下には一面、西陣織が敷かれており、歩くのがどうしても躊躇われた。案外と摩擦には強いのだそうだ。いやはや豪華。


こんなに素晴らしい美術館が、聞いたら一企業によって設立され運営されているのだという。だからこそ数々のユニークな試みができたのだろう。しかしそれを200円と言う決して元を取れないであろう入館料で一般に公開してくれているのはなんとも素晴らしい。いやはや脱帽。また行こう。