下賀茂神社 蹴鞠初

京都に移り住んだのだから、京都らしい祭事を見てみたいと思っていた。装束を纏った平安貴族の姿で優雅に蹴鞠に興じるなんて、これでもかというぐらい京らしい。しかも秦氏ゆかりの世界遺産の下賀茂神社とくれば隙が無い。サッカー全日本のシンボルでもある八咫烏は下賀茂神社祭神の化身だともされるので、白峯神社に並びサッカー愛好者が参拝すべき神社かもしれない。寒空の中を自転車で下賀茂まで走った。


鞠足と呼ばれる競技者は皆、年配の方達ばかり。アクロバティックな技も、競技者同士の激しいぶつかり合いも無い。そもそも如何に相手が蹴り易い球を返すかが重要らしく、勝ち負けも無い。中国の元々の蹴鞠とは大きく異なる。のんびりとした風情だ。ちなみに源頼朝足利義満織田信長豊臣秀吉らも蹴鞠が得意だったそうな。




この寒い中によくもこんなに人が集まるものだ。この黒だかり。京都の祭はバズーカのようなカメラを携えた年配が多い。愛読雑誌で言えばサライや和楽、男の隠れ家なんかを読んでいそうな人達。時折買ってしまう雑誌だ。ああ、自分もターゲットの一部か。




洗濯機で洗えるような化繊素材で有織ユニフォームを拵えて、フットサル宜しく蹴鞠をしてみたいものだ。誰でも気軽に参加できるようなイベントとして。流石に下賀茂神社の境内でとは言わぬから、平安神宮の広い広場ででも御所内の砂利地でも良い。蹴鞠は身分階級が厳しい時勢において階級の異なる人々が混ざり合える競技だったらしい。観るだけでなく洛中の人も外国人観光客も参加できたら楽しいだろうな。


鞠を見ることなく背面で踵で蹴り返す技を千鳥返しと呼ぶらしい。非常に珍しく難しい技だとのこと。そういえばベトナムで市民が興じていた似たような競技ではほぼ全てをこの千鳥返しで往復させていた。恐るべしベトナムセパタクローの技巧も蹴鞠と比較すると飛びぬけていたことを再認識。背面で蹴る困難な技も当たり前の技だと思って臨めばできるようになるものなのかもしれない。どこに視座を置くかで想像以上の力を発揮できる人間の可能性は素晴らしい。困難だと思えることも当然達成し得る事だと思って取り組むことが重要なのかと思いながら眺めていた。





午後2時過ぎでも長い影。世界遺産の下賀茂神社で大勢が蹴鞠初に注目する傍らで、注連縄に囲まれた神域に静かに小さく置かれた鏡餅。その対比が何やら良い。冬らしい光景。



一華開五葉。北斎画のような波に立ち向かう兎。因幡の白兎を連想。