鼎泰豊

鼎泰豊は一番のお気に入りの台湾の小龍包屋なのだが、小龍包そのものは上海で生まれたものとされる。上海で初めて小籠包を作り出したという「南翔小籠包」という本場のはずの店でも以前食べたが、台湾の鼎泰豊のほうが好みだ。


豚の挽肉を小麦粉の薄皮で包んだものなのだが、小龍包の魅力はなんといっても中の熱々のスープ。これは肉汁を入れて蒸しているわけではなく、豚のゼラチンが蒸されることで液化するのがカラクリらしい。鶏ゼラチンを混ぜた安物もあるが、豚ゼラチンを使い、スープが熱々になるまで加熱し、かつ皮が薄いものが美味い。それを全て満たすのが鼎泰豊である。


ここの蝦焼売も皮の中に汁がたっぷりで美味い。蟹小龍包を頼む人も多いが、鼎泰豊では小龍包に何かプラスアルファを求めるならむしろ蝦焼売がお勧めだ。


台湾、シンガポール、オーストラリアで食べたが、一番有難みがあったのがオーストラリアだった。台湾やシンガポールは他の料理屋も美味しくて楽しめたのだが、オーストラリアの食事はラムや魚介類は新鮮でもそれをグリルしただけのような単純料理を1週間も食べるとかなり飽きてくる。そんな飢餓状態で食べる鼎泰豊はたまらない。素材の新鮮さも重要なのだが、単に生か焼くだけでなく料理する意義を実感できる。意地悪な言い方だが本音。


京都の高島屋に鼎泰豊があることは知っていたが、京都には他にもいくらでも美味しい料理屋があるので今まで敢えて行きたいとは思わなかった。嫁さんの提案で、久しぶりに食べてみたのだが、心躍る美味さだった。


何より日本だからといって高級店化していないのが良い。レストランフロアではなく、3階の婦人服売り場の一番奥まったところに店を構えている。飲食店としては賃貸料も一番安い場所なのだろう。評判と口コミだけで客を呼べる自信の表れだろう。椅子も食卓も台湾店と同様の安そうなものであるし、絵だの装飾に金をかけてもいない。しかし入り口では料理人が黙々と作っているのが見える。本場の味と店にとても忠実で、余計なところに付加価値を乗せないでいてくれている。だから満腹に成るまで食べて一人1800円。台湾でも1000円はしたことを思うとけして高くない。庶民の味は庶民価格で出してもらいたい。


半年に一遍は訪れたい。この値段でこの美味しさは素晴らしいの一言。