一升びん

松坂に宿をとることにしたので、嫁さんは松坂牛を御所望。宿の窓からは三松という松坂で一番有名だとか言う松坂牛ステーキ屋の電飾看板がピカピカと光っていた。念の為、タベログで調べてみると酷い評判。1人3万円近くも取るくせに客を立腹させるような接客水準でファミレスのようなサラダやロールパンが出ると言う。昔、何がしかで金賞を取ったとかで、そんな金看板の遺産で年配のツアー客なんかは騙されてしまうのかもしれない。うむ。辞めよう。インターネットに感謝。


他にインターネットで調べた結果、「一升びん」という回転焼肉屋に行くことにした。入店して左にそれなりに雰囲気のあるゆったりとしたテーブル席、反対側に回転寿司ならぬ回転焼肉のカウンター席が並ぶ。回転焼肉に流れるのはテーブル席の半分の量、半分の値段の皿だそうだ。松坂牛特選肉、松坂牛カルビ、松坂牛バラ肉、各種ホルモン、非松坂牛の各種部位など様々な種類が流れてくる。一頭買いしている為、ほぼ全ての部位が出るようだ。


肉に関しては、高級店には自分の好きなものはないと思っている。日本の焼肉屋は値段が高くなればなるほど霜降りの脂だらけの肉のオンパレードとなり、腹をもたれさせずに気持ち良く客を帰すことなど考えていない。脂で腹が鈍く重く感じるようになるのを満足感と錯覚させようとしているだけのよう。そもそも稀少部位が旨いわけではない。一頭から何キロしか取れない部位なんぞを有難がる意味がわからん。美味しいか、美味しくないか、それだけだろう。食べたいのは脂ではなく肉だ。


この店は変な誇大化無しに美味しい肉を気安い値段で食べさせてくれる。よって脂っこい肉だけでなく赤肉もホルモンも皆出してくれる「一升びん」のような大衆的な焼肉屋が自分には一番良い。


松坂牛切り落としという一皿350円のものが実に旨かった。形もサイズも不揃いで時折カルビやらバラやらが混ざっている感じなのだが、肉汁あふれるその味はより値段の高い部位よりも上かもしれない。もう、切り落としだけで十分だった。それだけを只管食べ、それでも1人2000円もしなかった。恐るべし松坂。