さくらんぼ

義母から佐藤錦が送られてきた。アメリカンチェリーやダークチェリーのほうが甘味は強いぐらいなのだけれども、さくらんぼの甘さには豊かな香りがある。そしてさくらんぼには格別の思い入れがある。


祖父母は山形県庄内地方の農家だったのだが、子供の頃には広いさくらんぼ畑を持っていた。夏休みに遊びに行くと、畑に連れて行ってくれて「蟲喰い」だけという条件で自由に食べさせてくれた。まるで商品価値のない粒を摘み取るように仕込まれた猿のようで、木をするすると登ってはまだ軽かった体を枝に乗せてさくらんぼを頬張った。


そのさくらんぼ畑も農道を通すからという理由で市に売却を求められ、潰されてしまった。たくさんできた「スーパー農道」は確かに短時間での移動が可能になったが、速度の出る直線道路に事故死する農家の老人も増えた。今、選択ができるとしたらさくらんぼ畑の広がる長閑な風景と少しの距離をスピード出して走る利便性とどちらを選ぶのだろか。


争うようにして嫁さんと食べた。マンゴーにも食べさせた。やつは種ごと食べた。そして数日後消化されない種は尻尾の下からそのまま出てきた。