五条坂陶器まつり

琵琶湖大花火大会そっちのけで五条坂陶器まつりへ。何やら陶芸づいた週末となった。この祭は1920年六道珍皇寺大谷本廟へお参りに行く人々に対して、五条坂に店を構える陶器屋が登り窯で出た二級品を陶器市として売り出したのが始まりだそうで、現在ではその規模は日本最大となり来客数は50万人にもなるとのこと。京焼意外にも萩、有田、信楽など日本各地から器が集まり、五条坂両側に500店近くが軒を連ね、通常の30%〜50%引きで陶器が買える。


清水五条駅周辺には若手作家の店が多く集まるという。あわよくば、お得な値段で将来有望な作家の素敵な作品を手に入れられないかと期待に胸を膨らませて歩いた。客層はやはり陶器好きということで年齢層は高めだ。客と店主のやりとりを聞いていると面白い。


主人「この作品はズンドコなんですよ」
客「へえ、ズンドコですか。良い土の色してますね」


ズンドコ。なんのことだろう。頭の中では「ズン、ズンズン、ズンドコ」と唄ったところでオバちゃんの「キヨシー」と合いの手を入れる嬌声が鳴り響く。それ以外にズンドコという言葉が使われる事例を知らない。


まあ、なんてことはない。「全部常滑」を略して「ゼンドコ」と言っているのを聞き間違えていただけだった。そんな符牒で会話するあたりに客層がただならぬことを窺わせる。その他にもブースの傍に立っていると出店している陶芸作家らの会話が聞こえてくる。「今年はどの店もイマイチらしい」「ここだけではなくどの陶器市も動きが悪いらしいね」。清水焼団地の陶器市は例年夏に行われていたらしいが、五条坂のものと時期が被っており客入りが芳しくないために秋に延期したのだそうだ。


いくつか感じたことを書き留めておく。

  • やはり京焼きの技術水準は非常に高い。何度も窯入れして造る非常に手間暇のかかる品が多くあるが、どれも1万円以上して手が出せない。また、キレイすぎてつまらないというか普段使いの器にするには味気ない。表面が装飾されすぎて土の味わいが無いのだ。京焼の良さがまだわからない。
  • 五条坂の陶器卸店などには庶民的な器も置いているのだが、たった一ヶ所の小さな黒点の為に二級品扱いになっていたりする。その厳しさには同情するが、結局お客さんも買う際にキズものは避けるのでワケアリ品は作家に返品される破目になる。店の信用にも関わるので厳しく吟味し、普段は返品しているものを陶器市では二級品として安く売るそうだ。陶器製造業に仕損じ品が出るのは前提条件とも言え、そこは大きな窯元ほど規模の経済を働かせられる。
  • この厳しさを目の当たりにすると、新人作家の作品など申し訳ないが殆ど二級品と言える。けして造形や技術が拙いという訳ではなく、大抵どこかに微細な欠けや皹、黒点や縮れがある品を手作り感の良さとして開き直って売っているということ。さらに老舗の窯の作品を見た後だと、新人作家の品は粗い割に値段が高いと感じるようになる。老舗の窯ならワケアリはすぐ半額だが、新人作家の作品は2500円、4500円とそれなりの値段がつけられている。粗が気にならないような作風のものを選ぶか、よほど好みの作風のものに絞り込もうと思った。


とある店で平皿が1200円で売られていた。ワケアリな品ではないようで、形も良い。なんでも作家が意図した発色をしなかった失敗策だから安くしているのだという。数倍の値で売られている成功作を見せて頂いたのだが、正直それはもう好みの問題でしかないと思った。同じ釉薬で同じ品の出来上がりを想定しても窯の中の位置の違いなど微細な条件の違いで全く見た目の異なる皿が出来上がる。陶芸は難しい。そんなわけでまだ作家から成功例が届いていないという釉薬の皿を一枚買ってみた。釉薬が焦げてしまって失敗なのだという。また今度、成功例がどんな作風なのか見に来るという楽しみができた。

左が成功例、右が失敗例とのことである。