中秋 比良白坂 月兎 野点


かねてより行きたかった比良、白坂へ念願の登攀。MEETS REGIONALという雑誌の滋賀本に載っていた小さな記事を見て以来いつかは行きたいと思っていた。近江高島駅そばの登山口から登り始めて40分ほどしたところに突如現れる一面の剥き出しの白い一枚岩。



想像していたのはのっぺりとした一枚岩だったが、石灰岩の岩肌は風化して起伏があり、何よりも予想以上の斜度。



登山道から逸れており、白坂を登っても行き止まりだとは聞いていた。かなりの急勾配なのだが、それでも小生は登りたい。「ええ、こんなところまさか登らないよね」という空気を無視して敢えて皆に登ってもらった。登山経験の殆ど無い仏画女子は最後まで躊躇っていたが、取り残されて半ば強制されるように登った。企画者はいつだって無慈悲で身勝手で我を通す。



写真技術の拙さ故か、斜面の傾度というのはやはり伝わらない。ここでは重力下での疑似月面クレーター体験ができるとかできないとか。あとは皆の子供心と想像力次第。



それでも降りることを心配しながら登り詰めると、そこは白い岩肌の稜線になっており、左右に白坂が広がる眺望を得られる。風が汗を冷やして気持ち良い。やはり白坂は是非横目に通り過ぎるのではなく上まで登ってほしいものだ。禅寺の御曹司は流石に身軽だった。4足歩行の獣は更に身軽だった。



奇景を背に、坂の麓の木陰に座って寛ぐ。すぐ脇の清流から水を汲み、アルコールランプで湯を沸かし、禅寺の若住職にお茶を点てて頂く。



今回お誘いした岩手から京都へ和菓子修行に出てきたという友人は聞くと末富という京都の名の知られた老舗で勤めていたそうで、今回は中秋の名月という季節柄、月兎の薯蕷饅頭を持ってきて頂いた。以前は末富では餡を担当することが多く、今回のは同僚の手によるものだという。白い兎の上面に月を模した黄色い餅が合わさる。



絶景の中で座を囲んで、くどさのない美味しい上菓子を頂きながらお薄を一杯。作法も無く、談笑しながら。いくら汗をかく暑さだろうと、お薄の温かさはほっこりとする。なんとも清々しい。不躾な願いを快く聞いて準備してくれた友人に感謝。この上ない一席でした。