何かと話題の中国高速鉄道事情

この国にはよそ向きの顔と通常の顔があるのではないだろうか。新幹線を模して造られたといわれる高速鉄道。なんで設備があるのに使わないのか、制度があったはずなのに廃止したのか。そう不思議に思うことがいくつかあった。


まず、北京北駅舎は新しく近代的にも関わらず大きな出入口は閉鎖され、その脇の一人しか入れないよう制限された入口に数百名を並ばせて荷物検査をする。その後も、半時間以上立って待たされた。しかも出発の20分前頃にようやく乗車が開始する。仮に電車が時間通りに運行していてもその前後でやたら時間がかかるので随分と余裕をもって計画しておかないと乗り過ごす。結局当初予定していた電車を逃し、1時間は時間を失った。


設備上は指定席のある17元ほどの一等車席、より安い6元しかしない自由席の二等車席がある。英語の話せる中国人曰く、少なくとも1,2年前までは事前購入可能な制度も指定席もあったそうだが今は何故か無くなっている。よって早い者勝ち。切符を確認されて柵を抜けた途端に皆が疾走する。革靴を履いたオジサマも袋にお菓子をたくさん入れたオバサマも堰を切ったように電車に向かって殺到する。走らなかったら席がなくなるだけだ。豊かな生活に向かって全力疾走な中国を外国人旅行者も共に体感せよ、か。調和だ謙遜だ譲り合いだの言っているやつは置いて行かれるだけだと。一緒にいるだけで幸せなカップルだけが異なる時間の中にいるかのように歩いていた。

皆が向かう列車には大きく「和階(調和、協調の意)」と書かれており、シュールなことこの上ない。全力疾走を強いる仕組みにしておいて和階とはどうなのさ。



手を振りかざしてそれこそ搔き分けるように。。。



こういう時はスローシャッターで躍動感を撮りたいものだが、息を切らした同僚の中国人そっくりな人を撮れたので良しとする。歩く速度で走ってた後方のお爺さんなんてどうしろっていうのだろう。涙目。


帰りは既に乗車待ちする人の列の最後尾だったので最初から座席を諦めた小生は食堂車に向かった。行きと同様に5元の珈琲代を払えば席に座れるかも知れないからだ。しかし席は満席。仕方なく食堂車の床にその他大勢と一緒に座った。中国人は慣れたもので、レジャーシートのようなものを広げたり、輪になってカードゲームを始めたり。何か難民列車の様相だった。隣にはロシア人の留学生が座っていたので道中ずっと喋って帰った。1年近くいて中国語は多少話せるようになったけれども未だにこの国の仕組みがよくわからないという。いや、中国人自身もわかっていないのではなかろうか。だから周囲を見て、損しないように人が並ぶところに並んでみたり。

こんな事態もすっかり想定済みなのか、いつ遭遇しても快適に過ごせるよう備えているのか。中国語が話せたら、教わりたかった。



立って食事をする人用の背もたれの上の僅かなスペースに寝転がる。その下にも寝顔、前にも寝顔。念を押すが食堂車。



この子等が大きくなって余所に旅行した時に「え、席がないなら床に寝ちゃ駄目なの?」とか「寝たいから椅子じゃなく床が良い」と言っても、それは仕方がないというもの。


時間を効率的に使いたい旅行者には無駄な待ち時間が多い。徒競争には加われない老人や子供、妊婦や障害者には席が残っておらず優しくない。健常者にとっても危険極まりない。心臓発作で逝ってしまいそうなぐらい息を切らしているオヤジ多数。待合室の椅子、指定席の表示、その他もろもろの設備が使われないなら無駄。


前売り券をより高い値段で売ればいいものを。等しく二等席の安い運賃にして等しく混沌と無秩序の中に放り込むのは何故なのだろう。時間の有効利用よりも秩序よりも単純に値段が安いほうが良いのだろう、という大衆の足元を見るような当局の姿勢を感じてしまうのは勘繰り過ぎか。その一方で体面を重んじるお国柄、オリンピックや万博などで外国人が溢れ返る時期には「ほら、中国でも先進諸国と変わりませんよ」と示せる設備を備えて置くわけだ。深く考えて、真面目につっこんでは駄目なのだろうな。余裕のある時だったので面白い経験ができたで済むけれども、常時これではしんどい。