倦勤斎の光を撮る


8000以上も部屋があるといわれる紫禁城だが、ふと偶然迷い込んだ先の宮殿の回廊に何やら惹きつけられるものがあった。中国人観光客の団体客は誰一人足を止めることなく通り過ぎるだけだったのだが、気紛れにここに腰を掛けていたら長居するうちにこの空間がなんとも柔らかな光の射す安らぎの空間だということがわかってきた。



写真撮影に関する書籍を読むと、「写真は被写体ではなく光を撮る」と言っている写真家がいる。その意味がいままでよくわからなかったが、ここにいて、こういうことかと思うに至った。


主を失って生活の匂いや音が消えた回廊は寂しげだが、そこに当たる陽射は中庭や広場とは比較にならないほど柔らかかった。権力闘争に明け暮れ、甘言を呈する輩に倦んで静かに余生を過ごすには良いのかもな。こういう静けさが遺跡には似合う。


プロの写真家が撮ったら見事な写真が撮れるのだろうな。

後で調べると、倦勤斎は2009年に修復が完了して公開が始まったばかり。最も権勢を誇った皇帝の一人、乾隆帝が退位後に過ごす為に造営した宮殿だそうで、当時の贅と粋を極めた建築となっているそうだ。文物保護のため、一般公開されるのは「倦勤斎」の入り口と「西四間」の回廊のみで、残念ながら中に入ることはできない。