活き松葉蟹尽くし


11月6日が頭矮蟹の解禁日。山陰の頭矮蟹は越前蟹、松葉蟹、津居山蟹、間人蟹と様々に名前を冠して高値が付けられる。間人蟹は幻の蟹などと呼ばれるがその所以は大型蟹漁船が数日間帰港せずに漁をするのに対し、間人蟹は小規模船の日帰り漁が主流だからだという。そんなわけで日帰り漁の新鮮な蟹かどうかが味には重要で、どの漁港に揚げられたかで味の違いはおそらく無い。ならば間人蟹でなくとも他の漁港に日帰り漁で揚げられたまだ活きている蟹のほうが得かもしれぬ。


蟹は正月の晴れの食材という印象であったが、蟹を楽しみたいなら解禁直後の11月が良いのではないか。正月に向けて重要が高まるにつれて値段は上昇を続けていく。さらに冬が深まるにつれて海の荒れる日が増え、船を出せなくなると漁獲が減りそれにより値段も上がる。そんなわけで安くより多くの活き蟹を楽しむなら11月だ。




「あーぶく立ったー 煮え立ったー煮えたかどうだか食べてみよう むしゃむしゃむしゃ」嫁さんが乳児の息子によく歌っているのを思い出す。



精悍な蟹の甲殻は不思議と金色に輝く。これが普通らしいが知らんかった。



茹でて少しの塩気としんなりとした身を楽しむ。
焼いて香ばしい身を楽しむ。
天婦羅にしてふんわりとした食感を楽しむ。
刺身で弾力性に溢れる食感を楽しむ。


しかし誰が何と言おうと軽く出し汁にくぐらせ、ゆずポン酢で食べるしゃぶしゃぶが美味い。本来、焼蟹にして食べる分も刺身としゃぶしゃぶで食べさせてもらうことにした。せっかくなので好きな食べ方で食べさせてもらう。二人で雄の津居山蟹を五杯、勢子蟹を二杯。



沸騰した出し汁にくぐらせた瞬間、透明感のあった脚の身が白くなり、松葉状に広がる。完全に調理されたものを食べるより、最後に一手間だけでも自らの手を動かせられると愉しい。



冷凍の茹で蟹もそれなりに値の張る高級食材。だったら茹で蟹を何回も食べて中途半端な満足で終わるよりも日本海まで出向いてガツンと活き蟹を食べ尽くしたいものだ。年に一度の冬の味覚の贅沢。