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海賊と呼ばれた男

思索

海賊と呼ばれた男を読了。永遠のゼロを著した百田尚樹本屋大賞受賞作。


出光佐三をモデルとし、満州や台湾で成功し社員1000人を抱えるまで成功させたが敗戦で殆どの資産を失いながらも、戦後も石油メジャーに取り込まれて行く他の石油販売会社を尻目に民族系会社として苦難の中で成長させていく物語。読んでいて痛快であり、創業者の豪放磊落ぶりが英雄譚にしている。


作中で創業者は常々、会社の為ではなく国の為、国民の将来の為に尽くせと説く。社員を家族視し、その家族はそれこそタイムカードの無い労務管理の中で寝食を忘れて他社社員の何倍も働くことで有名だ。


絶対肯定され完璧過ぎて読後不安になってくる。果たして描かれていることは何処まで本当なのか。実際には1980年には原油を運んだ後の復路の空き便に廃油を積み込んで海上不法投棄していたことが発覚したり、その後も環境基準を超えた煤塵を排出していたにも関わらずそのデータを改竄していたことが発覚したりもしている。


創業者が引退した後に会社が変節したと言えばそれまでだが、社員こそが財産だと言い独自の社風を築いてきたのが本当ならば不祥事もその延長線上で生じたものだと思われる。


百田氏の作品はどれも好きで永遠のゼロ、風の中のマリア、ボックス、影法師と読み漁った。永遠のゼロは深夜に涙を拭くのも忘れながら没頭して読んだ。


しかし最近のこの人の政治との絡み方や発言を聞くと空恐ろしくなる。


都知事選で他の立候補者をクズ呼ばわりしたり、ツイッターでも
「もし他国が日本に攻めてきたら9条教の信者を前線に送りだす。そして他国の軍隊の前に立ち、『こっちには9条があるぞ!立ち去れ!』と叫んでもらう」などと護憲派を冷笑するつぶやきをし、軍隊創設を声高に叫ぶ。今や与党の方針とは異なる報道はしないと公言するNHKの経営委員会委員だ。


探偵ナイトスクープのチーフエディターとして長年一線にいた人で、大衆が何に喜怒哀楽するかを生業として探求し成功してきた人だと思う。公共放送NHKや小説を通じて再軍備憲法改正などへの思想扇動を試みているのではないかと背筋が寒くなる。


彼の著書中では戦争批判が度々なされ、新聞社や軍部、石油統一機構や石油メジャーの利己主義、腐敗や機能不全をあれだけ批判しながら、他方で再軍備改憲を主張する彼の言動が紐付けられず困惑している。てっきりこの人は巨大組織の自浄能力に懐疑的、否定的なのだと思っていたがそうではないらしい。


あれだけ百田氏が肯定的に描く出光興産すらも国の為どころか、私利の為に廃油の海上不法投棄に手を染めたというのに。


そんなことを考えながら読了したばかりの「海賊と呼ばれた男」を振り返ると、戦争や軍部、石油メジャーに取り込まれて自らの権益確保に走る他企業なんぞを批判して読者の間口を広げながらも、国益の為に滅私奉公することの昂揚感を礼讃美化して刷り込むことが本質に思えてくる。