ミッド ライフ クライシス

結婚し、子供も授かり、仕事も順調で人並みの出世もし、我が家も買った。親も家族も大病もなく健康。一見、何不自由のない人生のように見えるが当事者本人はもんもんと「自分の人生はこれで良いのか」と葛藤し苦しむ。

 

私の感想ではない。読んでどきりとした。心理学者ユングが提唱した「生の転換期」というもので、カナダの精神分析学者エリオット・ジャックは「ミッドライフクライシス」と名付けた。人生の価値を疑い始めたり、人生に迷いが出たり、これまで価値を感じていたものが急に無意味と思うようになったり。これらは意義深く正常な停滞だそうだ。

 

急にジムに通って体を鍛え始めたり、若い異性との不倫に走ったり。誇りや権威を持ち続けたいという欲求が仕事や趣味に向かわない場合には男性は性的な行動に走りやすいらしい。思秋期とも呼ばれる中年のこの葛藤は思春期と違い、しがらみも多く間違いも許される範囲が狭いので判断を誤って離婚、家庭不和、キャリア崩壊、散財などに陥ることもあるとのこと。

 

若さや外見に固執するパターン

  • アンチエイジングに興味を持つ、容姿に気を使い始める
  • 若い異性を追っかける
  • 高価なスポーツカーや時計などのブランド品を買いたがる

 

ライフスタイルを変えたくなるパターン

  • 転職や起業、独立を考える
  • 新しいスポーツや珍しい競技をはじめる
  • 海外に滞在したいと考える
  • 最新のガジェットを常に追いかける
  • 同窓会や社会人サークルを主催するようになる
  • 自分の子供に急に教育熱心になったり過干渉になる

自己破滅パターン

  • 不倫や浮気をする
  • 酒や薬におぼれる
  • 鬱と似た症状を出す

 

ハリソンフォードは62歳で20年来の妻と離婚し22歳年下の女優とつきあいだした。「自分自身をじっくりと見つめて、この生活を変えようって決断したんだ」とのこと。キアヌリーブスもホームレスのような風貌で街を徘徊した頃を「典型的な40歳メルトダウン」だと回顧している。

 

「私はミッドライフクライシスで○○をしてしまいました」が欧米だとひとつの失敗談のテンプレートらしい。中年の深刻そうな相談や愚痴にも「そりゃ、ミッドライフクライシスだろ。超高級時計でも買って奥さんに徹底的に怒られたら治るよ」だとか「ミッドライフクライシスの処方箋はスポーツカーと愛人」だなどと言われる。インターネットを検索すると、ミッドライフクライシスのカウンセリングなどの商業広告へとつながるブログや記事がわんさか出てくる。植毛(アデ○ンス)、高級ダイエット(ライ○ップ)、数多の高級ブランド、水素水、健康器具、高級車などは経済力のあるミッドライフクライシスの中年で成り立っているとも言える。「生の転換期」に差し掛かって人生の価値を問い直している悩める中年が、非合理的購買行動に出る「カモ」の群れとして狙い打たれているだなんて。南無。

 

 

中年のかかる麻疹のようなものだと軽く受け止めるべきなのか、「人生の午後」に臨むにあたって価値観の再構築を真剣に考えて自問自答すべきか。前者は現実逃避なのか、達観なのか。結局いろいろわからない。

 

  • 子供はかわいい。如何に個性を伸ばすかだとか、受験だとかいじめだとかいろいろ心配ごとが増えていく憂鬱感と良き親であるべきというプレッシャー
  • 仕事に目標を喪失している。その先に達成感や昂揚感が見えない。期待に応えること、利害調整の煩雑さに徒労を感じている
  • 年収に本質的な価値観を見出していないのにそこそこの年収を得ていることで自分を慰めている
  • 苦心して借金して手に入れた自宅が目に見えて汚れ壊れ劣化していく
  • 社会のインフラや資源を消費している自覚はあるが社会に貢献している実感はない
  • 自分の趣味の程度の低さを自覚している。ありたい姿からの乖離。陶芸、庭造り、写真、そもそもこのブログが便所の落書き程度であること
  • ふと気紛れに連絡を取って気安く話せる飲み友達がいなくなった。友人が多いと言われることもあるが、ほとんどいないと自覚している
  • それなりに自らを客観視し短慮でモノゴトを誤らない程度の分別はある。その自分の中庸さも残念

淡々と書き出してみたら、これまた全く平凡。悩みが平凡な人生はやはり平凡だと言われているようだ。鬱屈的な情動を生むほどに悲劇的に絶望しているわけでもなく、「もやもや」程度だから始末が悪い。一心発起するほど悩みの深さも活力もない。「気楽に、適当に、で良いじゃないか」「よくやれている方だよ」「足るを知るのも重要」なんて意識ともやもやが交互にやってくるような状態。その一方で、ひょっとして何かの弾みで理性のタガが外れて破壊行動に走ってしまうのではないかというぼんやりとした不安はある。

 

いっそのこと、「私はミッドライフクライシスで○○をしてしまいました」を逆手にとって夢想してみよう。

  • 100万円以上かけて自宅に陶芸窯環境を整えてしまいました。これはありだな。
  • 休職して永平寺の本格修行に行ってしまいました。いや、ここまでの覚悟はない。
  • 3か月休職して山奥の窯元におしかけで陶芸修行してきました。できたら良いな。まるきり細川元首相だな。
  • ボランティア活動を始めました。即効性の高い気休めだと思う。
  • ど田舎や離島に古民家を買ってしまいました。うん、これもありだ。

 

なるほど、ポルシェを1台買ってミッドライフクライシスを克服できるなら他の無数の破滅的なシナリオに比べればそれも悪い話ではないのかもな。

 

 

ライフワークの欠如。これに尽きる。ライフワークをみつけられるかが「人生の午後」から晩、深夜、日付の変わる残り数分までを充実させられるかの肝なのだろうね。

 中年クライシス (朝日文芸文庫)

 

中年クライシス (朝日文芸文庫)