空中庭園 ガーデンバイザベイを見て日本の観光政策に失望した

シンガポールはどこか人工的でハリボテ感が強くて文化的深みに欠けるなあ、などと些か失礼な先入観を持っていた。

 
マリーナベイサンズにしろ、セントーサにしろ、IONも、観覧車も、船がビルの上に乗ったホテルも、一回行ったら十分。そんな観光名所が多いとの印象は変わらない。シンガポールそのものがマーライオンみたいなものだと思っている。
 
そんなシンガポールを軽んじていた私が打ちのめされたのがガーデンバイザベイ。

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クラウドフォレストという6階建の壁面緑化された巨大な塔に登れるのだが、入口正面の滝に圧倒されてしまった。鉄骨や重量コンクリートにガラスやらセラミックやらを貼り付けた800mの塔なんかを建てられても、ふうん、よう、こんなもん作ったな、で終わる。しかし温室の中に6階建の塔を建て、さらにそれを温帯性植物で覆い尽くすとなると唖然とする。

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なんというか、夢があるのだな。

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塔を覆う緑を周囲から見渡せるように散歩道が地上6階の高さで迫り出し、取り囲んでいるのだが、地上から垂直柱を立てていないので浮遊感が素晴らしい。

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散歩道の両側は網状になっており、隙間から遥か地面が見下ろせる。これほど「空中庭園」という表現の似合うものを見たことがない。

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植え込まれた植物は実に多彩で生き生きと活着している。容易に手入れできる場所ではないので、本当に植生と合致しているのだと思われる。

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温室植物園などというとやたらと湿度が高くて、ムッとする。しかしここは外気温よりも涼しく気持ちが良い。
 
安全性や耐震性のためだと称して安全柵やら網やらを過剰に作って景観や風情が損なわれたり、植生の為と称して不快指数の高い湿度と温度だったりしがちだ。しかしここは観光地としての迫力や快適性が損なわれていないのが感心する。
 
植物園は直接的に何かに役に立つ施設ではない。宿泊する訳でもないし、おまけで飲食店は付帯していてもそれが目的ではない。ただ立体的に植物を植え込んであり、眺めるだけ。そんな完全に娯楽文化施設をこれだけの規模と迫力で作るとは。

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敗北感。ああ、今の日本を見渡してこれに勝てるものはないな。構想力の大きさというもので及ばないものを見た気がした。
 
大名庭園や時の権力者が作った寺社仏閣とその付帯庭園は素晴らしい。大胆な構想と緻密な作り込み。その素晴らしさに疑いようはないが、どれも数百年前の時点でのものだ。

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現代の技術や美意識を用いて「大きな構想力」で日本で作られたものに何があるのだろう。
 
海外から日本を訪れるインバウンドの潜在観光客数は非常に多く、経済的効果は大きい。それに応えられるようなワクワクする新しい何かというものが全く見当たらない。

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魚を氷詰したスケートリンクだの、展示後は金魚が大量処分されるアートアクエリアムだの、コンセプトや理念においても小さい。スカイツリーも単なる塔でしかない。此の期に及んでカジノリゾートだなんて、日本だけ世界の潮流の20年前を走ってるようだ。啓蒙するメッセージも感じ取れないものばかりだ。もっとワクワクする近未来と伝統が融合した、何かを日本は作れるはずだろうに。
 
地方の寺社仏閣、温泉や自然景観など古くから受け継いできた魅力は沢山あるが、現代の新しい何かで魅せれるものを日本は生み出せていないのではなかろうか。忸怩たる思い。