入った瞬間、ああ、この構造はいいな、と思った。
日本にこんなカフェがあるとしたら、しかも多肉植物・仙人掌カフェだとしたら、という視点で夢想しながら寛いだ。
道に面して全面のシャッターがついている。それをガラガラと閉めたら店仕舞いも防犯も完了。日本ならば冬の寒さを考えると窓は必要だろうか。シャッターを解放すると、軒先のパーゴラから陽を透かせた新緑が眩しい。遮光がわりに「玉綴り」や「ルビーネックレス」のような多肉が垂れ下がっていたら目に楽しいかもしれない。
屋根の下は陽射しを避けたい人の客席。ティランジアやリプサリスなどの紐サボテンをちりばめたい。コンクリートや煉瓦壁を廃墟風に仕上げるのではなく、白の漆喰壁に濃茶の柱や梁を剥き出させた和風の室礼にしたい。
道路に面した二階建ての客席棟があり、その先には中庭がある。吹き抜けで見上げると天井がない。雨天時には丈夫な天幕シートをかけられるようになっているようだ。
大きな柱サボテンなんぞが聳えていたら素敵だろうな。せめて、サボテンの骨格を置きたい。
階段には踏み込み板を空間に飛び出させ、鉢を嵌めるための穴を開け、それぞれの段に多肉鉢を飾りたい。中庭は最高の温室となる。
階段を登った先は陽射しを厭わない多肉愛好者の特等席だ。両側の壁をマミラリアで埋めたい。窓側の席は一列の奥行きのあるカウンター席にし、カウンター席のガラス板の下に販売用サボテンを並べられるようにしたい。
中庭と母屋の間仕切りには横長の水槽を置きたい。理想的には奥行きのない薄い水槽に挟まれるように仙人掌を並べ、あたかも仙人掌の合間を魚が泳いでいるかのように演出したい。水槽の上には水耕サボテンを並べて育てる。母屋の中にも、この水槽に対面するようにカウンター席を設けられる。
母屋は厨房であり、居室棟。二階の屋上は全面「銘月」で緑化したい。痩せた軽い土壌でも育つし、熱を吸収してくれる。真夏の直射日光をものともしないし、冬の寒さにも耐える。夏の夜に自動給水できる仕組みは必要だろうな。そして何より「銘月」はサラダとして食べられる。
せいぜい2部屋ほどの客室を設けたい。客室の窓からは中庭を望めるようにし、窓辺に多肉植物。二人がけのカフェテーブル。
シャワー室は天井を含め曇りガラスを多く配置し、ティランジアを配置したい。日々のシャワーの湿気を取り込めるようにしたい。
店の全ての仙人掌は室内装飾であり、売り物だ。利益が出ても全て新しい鉢や株の購入に充てて利益を消し込みたい。そうやって貯金を取り壊さずに日々を穏やかに陶器と植物に囲まれながら過ごしていきたい。
上物の建築だけで1500万円は必要か。ううむ。