並河靖之七宝記念館

東山周辺にある七宝作家の工房を保存した美術館。


七宝は銀線で縁取った輪郭線にガラス質の釉薬を流し込んで焼いたエナメル工芸品。ようは塗り絵のような原理なので極色彩で繊細な図柄は当然難しい。そのはずなのだがこの繊細さはどうだろう。小振りな小瓶にも高密度な花鳥風月画。


伊万里などに並んでこの七宝も外貨獲得の為の政府輸出推奨品であったらしい。明治、大正の日本の工芸品の多くは海外に輸出され、名品はさほど国内に残っていない。とりわけ国内外の博覧会で入賞を重ねた並河七宝はNamikawaとしてブランドを確立し、数多くのコレクターが争い求めた。


そんなわけで、かつてはこんなにも優雅な工芸品が日本にもあったにも拘らず、さほど日本人の目に触れていない。昔の品の多くはやはり破損して捨てられてしまったのだろうか。それとも静かにどこかの裕福な家庭を飾っているのだろうか。


この並河靖之という人、幕末の弘化2年に生まれ、維新、明治、大正を生き抜き、昭和2年に83歳で没している。年表を見る限り、激動の時代を生き抜いたと言いたい所だが、果たしてどうなのだろうか。工房を構えていた凝縮されたような「植治」の日本庭園を備えた住居跡を見る限り、意外と世の流れに頓着せずに黙々と小宇宙に没頭していたのかもしれない。



中国七宝の模倣から始め、釉薬を自ら改良して上の次元の表現を可能にし、有線七宝を世に知らしめた。その技術も彼の死をもって失われてしまったのか。


これでマンガミュージアムに続いて2館目。ぐるっとパス残り8館。