伊勢参り

「食足らぬ国」から「美し国」へ。温暖な気候、山の幸に加えて鮑、海老、海苔などの海の幸の豊かさから伊勢神宮の地となったそうな。今日までも1500年近くに渡り海の恵みが途絶えずに至るのは喜ばしい。


江戸の昔は一般庶民が藩を出ることは許されなかったが、唯一許されたのが伊勢参りだったという。一生に一度は伊勢参りをするのが大勢の夢。参拝そのものよりも藩と日常生活を離れて長旅することや観光することが娯楽だったのだろう。ルートはどう行っても構わなかったようで、伊勢のついでに京都や大阪を観光する人も多かった。暗黙の了解で子供や奉公人が無断で伊勢参りをしても、天照大神が商売繁盛の神でもあったから罰することができないことになっていたという。ただ、参拝の証拠を持ち帰りさえすれば良かったそうな。


路銀は今の価値にして70万円から100万円程度であったらしい。それを伊勢講を通じて積立て、手形でもって大金を持ち歩かなくとも先々の宿に泊まれる仕組みだったのだそうだ。伊勢に着いた後は持ち合わせた銀を伊勢の中でしか通じない紙幣に換えて使える今のクーポンのような仕組みもあった。


旅費70万円と聞けば大金に違いはないが血の気が引くような額ではない。それだけ昔が貧しかったのか、農耕中心で貨幣所得が乏しかったのか。


費用と期間を照らし合わせると感覚的には現代人にとっての世界一周旅行のようなものだろうか。最盛期には日本の人口が3200万人のところ、年間で430万人近くも参拝したとの記録がある。こんな国民はそうはいない。日本人は昔から随分と旅行好きだったのだな。