志摩白鱚と松坂蝸牛

金曜日は志摩で会社の会合だった。そして土曜の朝は激しい雷雨。そんな中、めげることなく船を出してもらい志摩のあご湾で船釣りに興じた。


餌はゴカイを使い、底付近に餌を落として釣る。おがくずの入った木箱にウネウネとのたうつゴカイ。一見ミミズかと思ったがそれよりも体躯がしっかりしていて針を刺しても千切れない。痛点は有るのだろう。針がぷつりと刺さると激しくのた打ち回る。餌を投じ、15メートル前後の海底まで餌を落とし、海底すれすれを泳がして魚を誘う。


釣りなんて最後にやったのはいつだろうか。小学生の時分、月に何度も親父に釣りに連れて行ってもらったことを思い出す。比較的都会派でアウトドアの趣味は持ち合わせていない父だったが、男兄弟二人にそのような体験をさせてやりたいという願望を持っていたのかもしれない。出張のない週は毎週のように強引に息子二人を朝5時半に起こし、連れ出してくれた。ガソリンスタンドで冷凍エビを買い車で1時間ほどの海岸へと向かう。小学生の我らは釣竿さえ使わずに釣り糸に針を付けただけの簡素な桟橋釣り。それでもたくさん鰺が釣れた。昼は釣った魚を母が調理してくれて家族全員で食べた。釣りには楽しい思い出がある。


ここでは鱚が釣れた。鱚しか釣れなかった。結局一時間半ほどで20センチ前後の鱚を12匹ほど釣り上げた。鯛のように激しい引きはなく、餌がなくなったかと思って巻き上げると鱚がぶら下がっている時すらあった。目立たない黄色の体色をしているが、釣り上げると体側は光を反射して輝く。鱚といえば天麩羅にすると上品で淡白な味が楽しめる人気の食材魚でもある。そんな上品で美味しい鱚も普段はゴカイのようなグロテスクなものを食べているのだな、と思うと若干複雑ではある。知らないほうが良いことでもある。


さて、松坂ではもうひとつしたいことがあった。マツザカギュウならぬマツザカカギュウを堪能することである。フランスではエスカルゴに最も美味いのはブルゴーニュ種と思われているそうだが、そのブルゴーニュ種を世界で初めて養殖に成功したのがここ松坂のエスカルゴ牧場なのだそうだ。フランス料理店で大枚を叩いて食べたいとは思わないが、安く美味しいエスカルゴが食べられるのならば是非食べたい。松坂のもうひとつの名物。それは松坂牛肉ではなく松坂蝸牛肉というわけだ。


元気に動き回る蝸牛を見学した後に、新鮮なエスカルゴのブルギニョンを食べようかと思った。しかし溌溂としたカタツムリを見てから食べるなどもってのほかだと嫁さんに却下された。


ゴカイにかぶりつく鱚。縦横無尽に走り回るカタツムリ。どんなに美味だろうと生前の振る舞いは見ないほうがよいらしい。