ささやかな晩餐と日中食談義

南京西路の一歩奥まったところにある中華料理店で友人と食事をした。中国では大勢で卓を囲んで外食することをそれなりの料理店では想定しているので、一人旅の身には料理店は利用しがたくこれまで屋台飯ばかり食べてきた。二人だけではあるが相伴する人がいるので漸く料理店に入ることができた。


内装が中世中華風で雰囲気も立派な店なのだが、友人曰く外国人のイメージには逢うかも知れないが中国人からしたら京劇の舞台のようで嘘っぽいとのこと。地球の歩き方に載っている料理店だったので内実、客は日本人ばかりかと思ったが結局日本人は自分一人だったようだ。


海老チリ、豆腐と青菜の湯、小龍包、蝦点心、葱と豚肉の炒めもの等々。海老チリは大きめな海老に葱などの刻まれたチリソースがかけられ、友人も満足の絶品な一皿。


小龍包も熱い肉汁が口の中に広がり、あまりの熱さに口を開けて宙を仰ぎ、会話が度々途切れるほどだった。只管点心を食べたいなら鼎泰豊も良いが、こうした上海の料理店は幅広い料理を楽しみながら非常に美味しい小龍包を頂くことができる。本来は蓮華の上にとって穴を開けて肉汁を飲み、それから生姜醤油に漬けて食べるらしいが、やはり一口で食べて手に負えない肉汁の熱さを楽しみたい。


御馳走を楽しみながら、日中の食事の話になった。つまみに出てきたオリーブや緑豆がなんとも酸味と苦みがあってどうにも好きになれなかった。「美味しい?」と聞かれて「自分でわざわざ買って食べたい味ではない」と答えたのが如何にも日本人然としていて面白かったそうだ。曰く、「日本人は不味くても不味いと言わない。中国人は友人や家族間なら不味いとストレートに言う」と。ほかにも日本人は「不思議な味」だとか「苦手な味」だとか、せいぜい「あまり好きじゃない」といった婉曲表現に終始し、親しい間柄ならばこそ時に堅苦しいと感じるという。


彼女の夫婦間では専ら早く作れて味のはっきりした中華料理を作ることが多いそうだ。これまで料理などしてこなかった旦那が料理ってこんなに簡単だったのかと旦那の母親の前で呟いたとき、旦那の母親の目に怒りの色を見たそうだ。日本では主婦にとって台所は主戦場で美味しく健康な食事を作ろうと心掛けるしその苦労を労ってもらいたいものだ。料理は簡単などとはあまり思ってもらいたくないだろう。しかし中国の主婦にそういう台所仕事の聖域意識は無いという。旦那も子供も料理が作れればそれに越したことはないし、ほかの人が作ってくれれば自分が楽になるぐらいにしか思っていないだろうと。中国の方が共働き率が高いということもあるかもしれない。