永遠のゼロ

友人に是非お勧めと言われて読んでみた。百田尚樹という作家の処女作である。


「生きて帰りたい」と当時のタブーを公言して憚らない「臆病で優秀だった」特異な零式戦闘機操縦士の話。分厚い文庫本だが、非常に平易に書かれておりさらりと読める。何度も泣かされ、深夜まで止められずに2日間で読み切った。物語の結末は少し出来過ぎているようでリアリティーに乏しい。しかし市井の人々の視点で書かれた時代背景の肉付けは戦争を殆ど知らない私達世代に当時のことを教えてくれる。

  • 経済的事情から多くの農家の次男三男が「自主的に徴兵志願した」社会背景
  • 実質的に選択肢を与えていない全体主義の中での「特攻志願」
  • 稚拙な作戦立案で大勢を死に追いやろうとも問われない軍の責任体系
  • 能力の高い人ではなく無能だろうと士官が必ず編隊を指揮して被害を拡大した戦闘機の空戦
  • 熟練操縦士よりも戦闘機を大事にした軍部の錯誤
  • 人命軽視甚だしい十死零生の特攻兵器の誤った設計思想

教訓は数えきれない。


戦争へ一気に傾倒していった原因を、国民を戦争へ誘導する論陣を張った新聞社に求めているのは少し乱暴に思える。背後にあった英米との経済戦争など諸々の背景は語られない。しかし日本があそこまで狂った方向に進んで誰にも止められなかった時代を小説形式で再度認識させてくれる良書だと思う。東野圭吾のようなドロドロとした売れっ子作家の小説に食傷気味だったので、悲しくも爽やかな読後感を与えてくれた本著が一層良かった。

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)