言葉少ななしぐさの中に様々な思いが感じ取れる、心の襞を存分に描いた作品。役所広司の重厚感、桜庭ななみの清廉な美しさ。映像も美しく、素晴らしい作品には違いないのだが腑に落ちない。なんだかおっさんの自己陶酔のように見えてしまう。
- 汚名を着せられようとも隠された使命の為に忍び耐える
- その使命を知り悔やみ侘びるかつての同胞
- 言葉も交わさず涙を流してうなずき分かり合う無二の友
- 主君の遺児を美しい娘に育て上げ嫁ぐまで見届ける
- 育ての父としてだけでなく男として慕われる
- 島原の太夫に誘われるも初志貫徹す
- 主君の死を忘れず、そっともうひとつの目的を果たす
いかにも日本的な英雄像。それも悲劇の。瀬尾孫佐右衛門に自分を投影して陶酔する為のおっさんのロマンティシズムに溢れた物語。後に残された者のことも考えず勝手なものだ。それも祝いの日に。しみったれた美意識だな。嫌いにはなれないが。
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2011/06/15
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忠臣蔵という長年愛された鉄板の忠義の物語。それを一歩引いて眺めると大衆の残酷さが見えてくる。
そもそもは浅野内匠頭が吉良上野介を江戸城松の大廊下で襲撃し、殿中抜刀の罪で即日切腹となり赤穂藩が改易となったことに端を発す。吉良に私怨があったとしても、江戸城でせずともほかにやりようはあったであろうに。浅野が切腹になったのは吉良のせいではない。江戸城中で抜刀してはならないという禁を破ったからだ。吉良はむしろ被害者であるにも関わらず、吉良に縁のある者は討たれてさも当然かのような蔑みに遭ってきた。
赤穂藩士に目を向けて見ても、討ち入りに参加したのは家臣300人ほどのうちわずか2割に過ぎない。しかし討ち入りに参加しなかった藩士に対しては不義不忠の者として幕末まで非難と蔑みの目で大衆は見た。例えば討ち入りに参加しなかった藩士、岡林直之は兄の旗本松平忠郷から義挙への不参加を責められ切腹させられた。旗本内田家の養子に入ったはずの高田郡兵衛も悪評に耐えかねた養父内田元房に家を追い出されるなどされたとのこと。後先も考えず短慮で江戸場内で吉良を襲撃し腹を切らされた殿様。その後を追って、いいがかりのように吉良家を奇襲し殺戮した四十七士。そんな蛮行に参加しなかったことで世間から非難され薪炭を嘗めることとなる赤穂藩残党や縁族。吉良家に討ち入って更なる殺戮に加担せねば許されない不条理。わけがわからん。血生臭い忠義を求める世間の先入観と圧力の恐ろしさ。