上醍醐寺 五大力不動明王

西国三十三ヶ所霊場で最も険しいと言われる十一番霊場上醍醐に登ってみた。待ち合わせの都合上、往復二時間半と言われる道程を一時間半で行く。参道は整備されているものの、全て速歩で登ろうと息込んだがすぐばててしまった。結局かかったのは往路45分、帰路20分。下りの方が足に負担が大きいというが、足りないのは筋力ではなく心肺機能であることがわかる。


上醍醐は寂れていた。准胝堂が落雷で消失して以来、入山料が600円もかかるようになり女人堂意外のルートがほぼ閉鎖され、巡礼者の御朱印も上醍醐に登らずとも下醍醐で授けるようになった。上醍醐のうち幾つかの堂は閉ざしていて仏像は拝めない。保安の為か、仏像の多くは麓の霊宝館に移してあるようだ。


それでも登った甲斐があったと思わせてくれたのは五大力堂の明王群だった。くぐって堂に入ると、身の丈以上の不動明王の憤怒形の中に浮かぶ金色の眼が暗さに慣れる前にこちらの眼に飛び込んでくる。入口正面中央の不動明王の金を塗られた瞳が射し込む光をうまく反射して劇的な効果となっている。目が慣れると、堂内には彩色豊かな壁画が広がり、その前に五体の明王が並んでいることに気付く。どれも造形が素晴らしい。


その後、霊宝館や仏像館に移されて展示された仏像を拝見したが、本来安置されていた山上の堂を離れてガラスケースの中に並べられてしまうと信仰の対象から切り離されて単なる美術品になってしまった感が強く、残念だ。


三宝院、伽藍、霊宝館、上醍醐を全て回ると2000円以上のチケット代がかかる。その上で賽銭を入れる気は起きない。足繁く通う場所ではなく、数年に一度訪れる観光地の仕様と料金設定にしたら、宗教離れしても仕方ないのでは。


そうして生活に馴染みのないものになっていき、仏教美術に対しても現代に生きたものではなく過去の遺跡を見物するような感覚になっていくのかも。