サラリーマンが楽しめる、勧善懲悪娯楽。そしてほろりとくる。なんの為に働くのか、どう生きたいのかという中年期の悩みに触れるからこそ惹き込まれる。
海賊とよばれた男が徹底的に主人公を美化しているのに対し、下町ロケットの主人公は離婚した妻に素直になれなかったり社員とのすれ違いに葛藤したりと人間くさい。その不完全さや物事の上手くいかない日常にリアリティがあるからこそ、乾坤一擲の勝負に出て行く様子が痛快で興奮する。
フィクションだとわかっているのだが、不自然に美化し過ぎた海賊とよばれた男という実話に基づいた話よりも遥かに現実味があり頭の中で情景が鮮やかに浮かび上がる。
池井戸潤という作家が多いに気に入った。もしかしたらスケールの小さい自分のような勤め人だから共感を得やすかっただけなのかもしれないけれど。