空気感や気配の色覚的描写が素晴らしく、谷崎潤一郎の陰翳礼讃に似た読後感。
侘びの中に艶が垣間見えてこその美だという主張は、まさにその通りで自分の好みでもある。
前半から後半にかけての8割型が寝食を忘れて惹き込まれ、読ませるものだった。終盤には利休の美への執着の源泉に触れられていく。
しかし武野紹鴎が人身売買して手に入れた唐人の死を大名物の十分の一の値段でしかなかったと鷹揚に受け流す非道を詰り失望する利休だが、自分とて己の美意識で好き勝手に人の命を翻弄した挙句に見苦しくも自らが死ぬべきと断じた時に怯んで死なずに逃げた。
妻の宗恩が指摘するように妻子ですら美意識で持って愛でる対象でしかない、我執のままに好き勝手に生きた人物像で終わってしまったようで残念。唐人から己の美を冷たく見据えられ、怨まれながら死なれて、それに囚われ抗い贖罪のように生きる利休であって欲しかった。
著者は京都の人で、読み終えた半月程前に亡くなられたと聞いて喪失感を覚えた。もう一つの代表作である火天の城を注文した。