食品サンプル

単に飲み食いするだけでなく、体験型の観光は思い出に残る。食品サンプル作りが外国人だけでなく日本人にも受けているのは不思議ではない。



料理屋で出される料理を写真で見せるのではなく、立体的なサンプルで見せるというのは世界を見渡すと普遍的なことではないらしい。日本でももはや、昭和の喫茶店かショッピングモールのレストランでしか見られない。高級店ではまず見かけない。どちらかというと大衆食堂のシンボルのようなものだ。



昔は蝋だったらしいが今では変色することのない塩ビ。しかし、外国人がどれだけ持て囃そうと、素材のテカリは嘘臭く実際に全く同じ見た目の料理が出されたら油でギトギトなのか発色剤を多用した危なそうな食材にしか見えない。ようは食品サンプルも未だ嘘くさい品質の域を超えないわけだ。



少し前に「ほこたて」という番組があった。一流の食品サンプル職人の造ったマスクメロンやなんかをメロン農家が見抜けるかというものだったが画面越しでは素人には判別不能なシロモノだった。技術的には相当リアルな食品サンプルは作れるらしい。単に大量生産の食品サンプルの品質が低いというたけで値段と品質がピンキリな世界でもあるらしい。この写真のコンクール出品の卵かけご飯のように本物と見間違うものは確かにあるわけだ。


ショッピングモールの大衆レストランではなく、それなりの高級料理店で本物と見間違う高級食品サンプルを展示して見て欲しい。店先にずらずら並べて明るく照らし出すのではなく、窓際のテーブルの上に食べかけのように定番目玉の一皿を超絶リアルな食品サンプルで表現して見て欲しい。何故か値札が付いていて、あれ、これは誰かの食べかけではなかったのかと面食らうような自然な装いで。


食品サンプルの体験制作をしてみたくもあるが、家に持ち帰っても持て余すだろう。家で飾りたいと思えるとしたら何だろうか。空中にフォークの浮いたスパゲティーでないこたは確かだ。寿司でもない。例えば毛を毟られた超絶リアルな合鴨だとか、吊るされた腿ごとのハムだとか、高橋由一の絵のような鮭だとか、そんな特殊食材のサンプルが厨房にあったら面白いかもしれない。


あるいは食卓の賑わいとしてあたかもご馳走があるかと錯覚するかのようなもの。葡萄やマスクメロンなどの果物、ロックフォールチーズやカマンベールチーズ、あるいはマカロンや大福などいつでも食べられるかのように置いておけば案外、脳がいつでも食べられると錯覚して満足できないものか。