目先の損をしても自分の信念を押し通す。自分にとって価値のあるものからブレてはいけない。そう思わせる作品数点。忘れっぽいから時々、こういう作品を見て自分の立ち位置を再確認することは有意義だと思う。
MAUDIE ☆☆☆☆
しあわせの絵の具
カナダの実在の画家の半生を描いた作品。若年性リウマチで体が不自由ながらに絵を描き続けたモード・ルイスと、彼女を支えた夫を描く。
モードは生涯を通じて貧しかった。魚の小売業を営む夫は偏屈で世間の評判は悪かったが夫婦の絆は強く、彼女が描く明るい色彩の素朴で温かみと幸せに溢れるタッチの絵で彼女はカナダで最も愛される画家の1人と言われる。
世の中で何が幸せで何が価値があるのか。世間体に惑わされずに、地に足をつけて、自らの手の届く範囲の人やモノを大事に生きていく。実際のところはわからないけれども、けして経済的に恵まれていたとは言えなくとも、幸せに人生を送ったのだと思う。
小手先の器用な作品ではなく、描きたいもの、表現したいものを作りたい。そう思わせてくれる。今からでも土を捏ね始めたい。作りかけのものを全て破壊してゼロから猛烈に作陶したい衝動にかられた。
夫エヴェレットを演じるのはイーサン・ホーク。偏屈で人嫌いで無骨で言葉足らずな男。実在するそんな男にしか見えなくなってくる。名優だ。自分の俳優としての魅力を見せつける演技ではなく、物語が伝えたいことを引き立てる演技とでもいうのか。とてもとても好きな俳優のタイプ。映画では描かれなかったが実話では晩年、夫も絵を描くようになったという。
2018年に公開予定とのこと。実を言うと、邦画のタイトルを見てげんなりした。幸せだの愛だの押し売り感が強くなっていて、この広告を見てから作品を観ていたら素直に入ってこないように思う。売らんが為の安っぽいタイトル変更ではないか。
A FAMILY MAN ☆☆☆
ヘッドハンターコーリング
ジェラルド・バトラー演じるマッチョで勝利至上主義で好戦的で口がまわり自信家。勝利のためならば卑劣な手も厭わない。体格が良く、筋肉質。立派な家に美人な奥さんと息子と娘。わかりやすいアメリカ的成功者の家庭。
「因果応報」
仕事に一辺倒だった遣り手のビジネスエグゼクティブが家族との幸せに気づき生き方を見直す、とまあ何度も描かれているアメリカらしい題材。そしてこんなに恵まれていながらも、息子が白血病になるまでそれに気付けない。
自分はどちらかというとこんな風にヘッドハンターという首狩り族に売買される商品側なのだな。オファーを頂いた案件をお断りした際にはお前のためを思って薦めているのにだの、お前の判断には賛同しかねるだの、いろいろ言われた。私の意向よりも、私のことを成功報酬の金にしか見えていないのだな、と強く感じた。ヘッドハンターに世話になったことがある人ならば興味深いあちら側の舞台裏を描いた作品だと思う。
自分の仕事に誇りを持つ、子供に誇れる仕事をするというメッセージには同意。
それにしても、だ。子供は病を克服し、主人公は優秀でハンサムで自信家なままに、さらには家族との絆を取り戻して全く隙のない完璧な父、夫になったわけだ。彼が仕事の鬼だったころに卑怯な手で蹴散らされた被害者はなんだか報われないな。そこに心が向く自分は僻みっぽい気もするけど。
昔、不良やヤクザだった人が真面目に更生するとちやほやされ、昔から真面目一辺倒でやってきた人は陽の目をみない、という話にも通じる。悪どく経済的に成功してその後で目を覚まして家族との絆を取り戻して幸せな生活を得るなんて、あまりにもいいとこ取りじゃないか。真面目にコツコツやった人が報われない。作品で言うところの「因果応報」が足らんだろう。
あれ、機内で観た際には邦題がヘッドハンターコーリングになっていたが、発売予定のDVDだとファミリーマンだ。こちらはヘッドハンターコーリングのほうが良いような気がする。ファミリーマンってのもダサくないか。バットマン、スパイダーマン、ロケットマン、ファミリーマン。蝙蝠男、蜘蛛男、金正恩、家族男。
Burnt☆☆
二つ星の料理人
こちらは2015年の映画で昨夏日本公開。
怒声が飛び交う厨房の戦場感が鬼気迫る。エゴの塊、料理人同士の確執。
料理を極めようとする人の拘りを追求した世界が描かれていて心に残った。
料理や皿を投げ捨てるとは何事か、とか怒声が飛び交う厨房で作られた料理なんて美味しくない、だとかいろいろ文句の言われている映画。そのような文句を言っている人には勘違いがあると思う。名声と料理の極みを追求している肉食的で闘争的な芸術家であって、料理で勝負しているのであって、シェフ側に温かいおもてなしをする意識はないのだよな。
接客は完璧な給仕のできるサービスを雇ってやることだと思っているし、厨房の怒声は客席には聞こえない。にこにことした笑顔で客と迎合した雑談をして満足感を味わってもらいたいわけではなく、料理の味で判断してほしいと思っている。
画廊や注文客に愛想の良い商売上手な画家と、自分の全てをぶつけた絵だけで評価してほしいと願う画家の違いのようなものか。
いがみ合い、意識し合う料理人の人間模様も描かれる。リースという同じレストランで修行した三ツ星レストランシェフが登場する。貶しあい、敵意を剥き出しにして、それは幼稚なぐらいだが互いを刺激し合う存在として深く認め合い必要とし合っている様が描かれる。高みに上がるほど、対等なレベルで刺激し合える人は少なくなり、専門領域では孤独になっていく。主人公の醜態を晒さないように人払いをし、自ら介抱するリースの振る舞いは無表情ながら優しい。
ミシェルの復讐の鮮やかさには、主人公同様に呆然と笑うしかない。
それにしてもミシュランを始めとして、フランスって格付け大好きでかつ、何事も上から目線だよな。斬新だと褒め、古臭い、インパクトの薄い復活だなどと貶し倒す。何様だよ、と批評家という人達に対して腹立たしくも思う。
フライパンで肉を焼くのは旧世界らしい。ビニール袋に入れて温熱調理するのがトレンド。しかしそのトレンドも数年で変わるのが最先端の料理界でもあるそうな。
ところで、料理人があんなにスパスパと厨房でタバコを吸って良いのか。それだけは解せなかった。
ALL EYEZ ON ME
オールアイズオンミー
伝説的ラッパー2PACの伝記ドラマ。心に響かず。
エミネムはプールにビキニ美女侍らすようなMVは撮らないよな。「成功して金持ちになると白人の美を有り難がり始める腐った黒人がいる」みたいなことを言ったTupac自身も当てはまってるような気もする。
スラムの代弁者として歌い、そのくせ、無計画に放蕩を尽くして身をもち崩す。なんだかな。
彼が作中で言う「これだけは譲れない」という報復への執念には全く共感できない。
Ghost Story ☆☆
ゴーストストーリー
デミ・ムーア主演のあの名作と同じように不慮の事故で亡くなった男が残された恋人を霊となって見守るという二番煎じな物語かと思った。
地縛霊。
現実はもっと淡白で無情でせつない様が淡々と説明的な映像や台詞も控えめに描かれていく。
ドラマチックな起承転結のない作品だけれども、心が疲れた時に観ると心に静かに染み込んでいくというか。人に勧められるかはわからないが自分は好きな作品。アカデミーでもカンヌでもなくサンダース映画祭で絶賛された映画といえばなんとなく伝わるのだろうか。
Baby Driver☆☆
ベイビードライバー
ワンダーウーマンやダークタワーなんかよりもこちらの方が面白いと思うのだが、前者は日本公開されるが当作は未定。
ワイルドスピード」シリーズが好きな人はこの作品も面白いのではないか。主人公の子供と大人の狭間な容姿と表情はまさに今だけのものに思う。
「打ち上げ花火、丸いか、平たいか」という話を作中ではみんなしていて、誰も横から見るか、下から見るかなんて話はしてなくないか。
魚眼レンズで眺めたような構図や、立体的で遠近感溢れる視点からの映像表現が多く、最近のアニメの描写力って凄いな、と思いながら眺めていた。
登場キャラクターがみんな髪がツンツンしたアニメキャラなのは残念。ゲームでいうところのファイナルファンタジー化というべきか、映像は美麗化していくのに登場人物はホストのような優男ばかりで世界観は薄っぺらくなっていく。