長男と次男が2人とも泊まりでいない、という年に一度の奇跡の日。まるで七夕のような巡り合わせの日。嫁さんの希望で大人だけでディズニーシー隣接のミラコスタというホテルに泊まることに。
部屋からはゴンドラの行き交う運河が見え、ゴンドラの漕ぎ手が歌うのが窓から聞こえてくる。なかなか本格的なイタリア臨場感だ。
遠方に見える魔王でも住んでいそうな要塞城はタワーオブテラーというアトラクションだそうだ。
青紫に照らし出されてボスキャラ居城感が強まる夜。深夜1時を過ぎると殆どの灯りが消えたが、それまでは夜景を残してくれる。
早朝4時半の眺め。無人の街並みというのも静謐な感じがする。
結婚記念日ということでサプライズでチョコレートケーキを部屋に運んでもらった。オレンジピールにリキュールの入った酸味を覗かせる甘すぎないチョコレートケーキ。隙がない。
「私、サッカーなんて興味ないんだけど」
「え?本当に観るの?観るの辞めない?」
結婚記念に夢の国に来て、ミラコスタの豪華洋風客室で興味のないサッカーの試合を深夜に映されるのが興醒めなのはわからんでもない。でもこれも夢の試合なのだよ。
嫁のハイプレスに耐えながらの観戦。
歓声もガッツポーズも心の中に秘めての観戦。
その結果があの試合だったわけだ。嫁も寝入った0時半のパス回し。なんだよこれ、とビール瓶を運河に投げ込みたくなった。道頓堀の代わりにゴンドラ運河にダイブしたくなった。私なりのリスクテイクと自己犠牲と献身で観戦したにも関わらず、報われるような試合内容でなかったことに対する鬱憤なのだろう。まあ、勝手な話だけれども。
ワールドカップ は誰のものか。考えられるのは観客、選手、監督。経済効果に期待する人達は取り敢えず無視する。
観客は少なくとも消化不良に終わった。FIFAランキングの低い、下馬評ではグループ最弱と思われていた日本代表のこれまでの積極果敢な試合運びにファンが増え、日の丸の鉢巻をしめて日本を応援してくれる外国人が増えていた。散々、「引き分けでいいと思って臨んだらダメだ」「攻めのカードを切り続ける監督」「最後まで攻め続ける姿勢を見せる日本代表」「速いカウンター」「世界が賞賛した組織的で芸術的オフサイドトラップ」そんな紙面を賑わすフレーズや煽りに日本代表の戦い方に誇りが持てるようになった。優勝はできなくとも、好感の持てる、応援したくなる日本のカウンターサッカー。
それがあのパス回しの時間浪費試合を見せられて「結果が全てだからOK」と言わないといけないのならば、セネガル戦も結果としては単なる引き分けでしかない。「ビハインドでも何度も追いついた粘り強さ」だのと、讃えて酔いしれたのも自己否定するようなもんだ。結局引き分けだったよね、と。「日本を好きになっていたのに幻滅した。次でボコボコにされて欲しい」とロシアの観客が言いたくなるのもわかる。残念ながら、日本人ファンはそう簡単に日本代表を見限ることはできないが。
選手としてはどうか。ワールドカップ は選手にとっての栄誉であり、選手を各国クラブに売り込むアピールの場でもあると思う。今回が最後のワールドカップ になるであろう、日本代表のスター選手たち。香川、本田、長谷部がスタメンから外された。このままセネガルに引き分けられてグループリーグ敗退で終わっていたら、彼らスター選手は花道を半端に失った形で終わる。では登用抜擢された武藤や宇佐美や酒井高徳らはどうか。無得点の時点で守りのパス回しに移行してしまったので、彼らではやはり勝てないのだな。という認識で終わってしまったのではないか。あのまま攻めさせてもらえて、もし同点弾を誰かが叩き込めていたらその選手のアピールにはなったと思う。しかしあの試合で抜擢登用組の評価が上がったとは思えない。川島の名誉が挽回されただけ。選手の花道ともアピールの場ともならなかった試合だと思う。
そうなると、あの他力本願奇策に掛けたのは監督が体裁も全て投げ捨てて、観客も選手も二の次にして無様だろうが批判を浴びようがグループリーグを突破するためだというエゴイズムと言えなくもない。うまくいけばハリル更迭の代打であった彼が2020年まで日本代表監督の座を得られる。
一歩下がって考えてみる。ただ、単にグループリーグを突破するだけならばコロンビア戦、セネガル戦と同じ布陣でよかったわけだ。その方が勝つ確率は高かったと思われる。そのかわり、選手を消耗することにはなる。グループリーグを突破しても、疲労をため満身創痍の身でベルギー戦に臨むことになる。キレに欠けた戦力で勝てる相手ではない。
西野監督はハリルの代役として急遽抜擢された身でグループリーグ突破できたら御の字だろう、なんて低い視座にいないのだと思う。はなからベスト8以上を目指すつもりで、その過程でリスクを取っている。香川、乾、長谷川を完全な状態で臨ませ、ベルギーに勝ちに行くための布石。そう考えるとなんて攻撃的じゃないか。とんでもない勝負師だ。惚れる。
一発レッドカードの幸運でコロンビアに勝ち、勝てる試合でセネガルに引き分け、ポーランドに負けている試合で守りと時間潰しに走り、グループリーグ突破のための小技に走った挙句、ベルギーに敗退。
それならばポーランド戦に総戦力で望んで、疲労の残る満身創痍の布陣でベルギーに敗れる方がマシではなかろうか。ベルギーに対する勝利。この真のジャイアントキリング、大物食いを達成してこそ全ては正当化される。
ベルギーに勝って、自他国の観客を熱狂させ、選手を輝かせ、そしてしてやった顔でこれからの日本代表監督として踏ん反り返って欲しい。
選手に負けないぐらい攻撃的な勝負師の監督なんてかっこいい。そういう上司のもとでは部下も活気がでるもんだ。そういう上司のもとで働きたい。そういう上司に自分もなりたい。
ちなみにうちの爺様は当人は攻撃的な勝負師のカッコいい親父だと思っていたかもしれないが、家族からしたらギャンブルで家族に迷惑をかけた困った爺様だった。勘違いは避けたい。