2018年藝祭 素晴らしい作品の備忘録

朝の7時に家を出て、上野に向かう。今日は丸一日、公私ともに休み。折角なので藝祭の朝一の無料コンサートに顔を出して見ることにした。

 

8時前に着いたのだが、開門は8時半だという。間違えたようだ。しかしこの時点でもう20人近く列ができている。のんびり待つことにした。8時半には150m近い列が続いた。

 

藝祭音楽学部のコンサートはプロで活躍している奏者も多く大人気なのだそうだ。朝10時前のコンサートは先着順の整理券制、それ以降は全て抽選制でなかなか当たらないシロモノらしい。私は門前で半時間以上も待ったこともあり、希望したピアノと菅弦楽のコンサートを最前列で見ることができた。ピアノ、クラリネットオーボエ、フルートのカルテットの組み合わせは珍しいらしい。

 

奏者から2mの距離でこれだけの演奏を聴ける機会はなかなかないのではないか。私は音楽に造詣は皆無。彼女らの腕前がどれだけのモノなのか私にはわからず、ただ感心した。仮にどこかでミスしていたとしで私には気付けない。素人であることも良いことだな。知識も先入観もなく楽しめる。目を瞑るとその迫力に取り込まれる。電気も機器も使わずにアナログな楽器だけで、4人だけで、これだけ重層な閉じた世界を作り出せるものとは、楽器とは凄いものなのだな。

 

  • フルートの息継ぎの音がまるで水泳競技者のようでビックリした。これは聞こえないようにできたほうが良いのではないか。楽器の構造的問題なのか。文楽の黒子のように、観客が「ないもの」と見做す約束なのか。
  • クラリネットのリード?がどうやらとても繊細そうだった。しきりに舐めて感覚を確かめ、コンディションを整えている。
  • 奏者は皆さんロングスカートを着ているので足のシルエットはわかりづらいが、足は肩幅に開いて案外、腰を落として膝のバネを使いながら全身で演奏している。
  • オーボエは時代を下るにつれ活躍しなくなっていくそうな。クラリネットの登場によって音域の広いクラリネットに淘汰されていったらしい。しかし私にはオーボエは高音域も綺麗で中低音も伸びやかで聞き応えがあって好みだった。
  • 演奏会は女性はノースリーブのドレスを着ることが多いが、BCGの注射跡が見えてしまう。このご時世、もっと目立たない注射、目立たない箇所への注射には進歩していないものか。

素人のしょうもない雑感。家に帰ってオーボエの曲を探してみようかと思う。

 

アートマルシェで前から気になっていた指人形を買った。当ブログに時折コメントをくださる方が今年の出来は例年以上に良いと褒めてらっしゃったので、今年こそ買ってみようと後押しになった。使い道はない。現役生の出店なので卒業したらもう入手できないかもしれないと自分への言い訳を作った。

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群れるとどこかしら艶かしいというか、風呂場的というか。ちなみに帰り際に覗くと2人が組んだもの、3人が組んだもの以外は全て売れていた。結構、外国の人や例年買い集めているファンがいるらしい。

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藝祭名物の御輿は今年は4基しかないらしい。昨年から半減してしまった。学生の制作テーマから外れたものを作るのにかなりの労力を割かせるシロモノらしいので、学生のことを思えばこれで良いのかもしれない。観客としてはあの圧倒的なディテールの作り込みは必見の名物だったのだがな。

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マッドサイエンティスト御輿。口の開き方はプレデター風か。

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絵画棟に移動。ちなみに作品は撮影可能なのか不可なのか未だによくわからない。撮影不可な印をつけているものは無論撮らないし、近くのスタッフに確認して撮らせてもらっている。大抵は「構いませんよー別にSNSにあげてもらっても」という答えを頂く。案外、今のご時世、気にしないものなのだろうか。近くに人がいなくて確認できなかった作品もある。指摘頂いたら削除させてもらうが、是非備忘録に残させて頂きたい。いや、むしろ20万円ぐらいまでなら売って欲しい。。。無理か。

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今年は自分の制作現場の動態展示がテーマな様子。五十嵐さんの昨年の作品は強く覚えている。フラミンゴをモチーフにした作だった。今年の展示はルネッサンス様式絵画のようなタッチの顔のない肖像画などで視線を奪われる引力がある。生気の薄い色白な顔。死の気配が濃厚な作品群。

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他にも、おおこれぞ藝大の展示と圧倒してくれたのが原澤亨輔さんの「見島牛」。

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なぜ、ここに緑青、しかも垂らし込みっていうのがとても好み。

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全体を書き込むことなく、簡略に処理されている部分が好き。

 

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南雲梨花さん の「まんねん」。昨年の彫刻科の象亀の群れを思い出した。引きで見ると存在感が素晴らしい。近くで見ると、洞穴のような目の窪みと表情の読めなさまでくまなく象亀が描かれている。

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中條亜耶さんの「for caviar」。

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どこを見てるんだか、何を考えているのだがわからない、見方によってはユーモラスな顔をした古代魚チョウザメ。タイトルから察するに嗜好品として卵のために捕獲消費されるチョウザメの理不尽に寄り添う想いが込められているのではないか。

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なんか知らんが、緑青たらしこみをアクセントに入れるのが流行っているのだろうか。嬉しい。

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こういう技巧が盛り込まれていて適度な造形の写実性と、絵画的な簡素化がされている動植物モチーフの絵が好きだ。人によっては既視感があるだの、誰某の作風に類似しているだの言うのかもしれない。でも私はこういう絵を家に飾りたいし、日々眺めたい。

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美術予備校で受かるためのデッサンを練習して何浪した後に、ようやく受かった後には自分の描きたい絵がわからなくなっている人もいるという話。自分の高校の周囲では神童、天才ともてはやされるも入学後、他の人の技量との差に愕然として心が折れる人がいるという話。中退する人もいれば卒業後に消息不明になる人も多いという話。あれこれ聞く。

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もう、投げやりなのか何なのかわからない作品も正直ある。たまたま隣にいた卒業生と思しき人は、「おれは卒業制作、費用1000円、1日で終わらせたぜ」と嘯いていた。

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美術に愛想を尽かす人も断念する人も迷走する人もいろいろいるらしい。しかし少なくともここに載せた人たちは自分の目指す方向性があって黙々と制作している人たちなのではないだろうか。


新規性が全てでもないでしょう。昔の狩野派なんて類似品ばかりだし。

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ふと、エレベーターホールにかけられている巨大ポートレートがこれまた存在感がある。

 

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それからふと目にして衝撃的だったのがこの冷やし中華。七宝で作られている。胡瓜の色のグラデーションといい、麺の細かさといい、室内照明が反射している部位を見ると、有線で輪郭が作られていることがわかる。なんという冷やし中華という大衆的食べ物に対する過剰技巧か。

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学生の皆様はお疲れ様でした。作品を見ると凄いが、制作者を見ると、本当に若いのだよな。人によるが童顔な人は高校生かと思うぐらい。それが尚更、凄いと思わせるし成長の可能性を感じさせてくれる。

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藝祭は日曜日に来たらとんでもない人混みだった。やはり金曜初日に会社をサボってくるのが理想的。

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