何か韓国から買ってきてもらいたいお土産がないかと妻に聞いたのだが、特に無いとのこと。あー、良さげなビジネスホテルに泊まるなら使い捨てスリッパでももらってきて、だと。自分でも韓国から強いて何か買ってきたいものは思い浮かばない。しかしだからといって韓国に魅力的なものが無いわけではなく、単に知らないだけなのだろう。
韓国の友人と会えることになったので、日本から買ってきて欲しいものを聞いた。「うーん、特に無いや。強いて言うなら抹茶かな」とのこと。韓国でも大抵の日本のものは買えてしまうし、逆もまた然りなのだよな。
韓国人は日本のものを比較的よく知っているし、好きなものは自分で買う。欧米人だとそもそも日本に住んでいた人でもなければ何を買ってきて欲しいかイメージが湧かない人も多いのではなかろうか。ここ何回か、欧米人から日本からの土産に「抹茶」を依頼されることが多い。しかしそれがダントツに抹茶が好きだからなのか、さして抹茶ぐらいしか無難なものが思いつかなかったからなのか判じかねている。
- 酒は香りが鼻につくし(醸造アルコールの香り)酸味とボディがワインに比べて弱くて物足りない。
- 餡子は苦手だし(好みは仕方がない)
- 日本食材は自宅で日本食を作るほどでもないし、日本料理屋に行けば十分かな。
- フジヤマ、キモノの小物は実用性が低い。
- アニメのような子供向けか小児愛じみたものには興味ない。
- 服も靴もサイズが合わないし。
- うーん、当たり障りのない抹茶キットカットでいいや。
そんな思考を経て「私、抹茶が好きなの。何か抹茶を買ってきて」となっているのではないか。無論、上記のような偏見や誤解には全力で突っ込みたい次第。
空港に友人に迎えにきてもらった。友人宅はソウルの北部。道中、向かって左手に大きな川が見えて、物々しいフェンスで区切られていた。川向こうは建物もなく、葉を落とした木々が茂るだけ。雁や野鳥が群れて飛んでいく。自然保護区か何かだと思ったら北朝鮮とのこと。こんなに近かったとは。
ソウルから友人宅は28kmほど。北朝鮮国境に最も近いのは平壌からの幹線道路が伸びてきているらへんでその地点でソウルから24kmほど。この距離は東京駅と浦安駅の距離間と変わらない。もし鼠国という100万の陸軍を有する敵対国の国境があって、ある日、突如侵攻を開始されたら浦安と東京の間のどれだけ手前で食い止められるというのだろう。韓国の経済機能の大半が集中したソウルが北朝鮮国境に近接していることの不都合さを改めて実感した。
韓国人は北朝鮮には観光では行けない。日本人やアメリカ人のほうが簡単に観光に行けるなんておかしなもんね、とのこと。
途中、マイクロブルーワリーに立ち寄った。小さなクラフトビール醸造所が韓国でも増えているらしい。
そして友人が商う料理屋に到着。今日は店を閉じていて、私の為に貸切だそうだ。ここら辺には工場も多く、そこの工員が昼晩に沢山来てくれるのだという。
手作りネギのキムチ。
手作り蕪のキムチ。日本の甘くしたキムチと違い、ガツンとした辛さがある。
出た。サムギョプサル。
美味いのはわかっているのだが、ダイエット中の私には壊滅的な脂肪量。しかしもてなしを断るような育てられ方はしていない。もう腹をくくってリバウンドを乗り越えていくしかない。
丘のような鍋の淵に脂が垂れていく。そしてその溜まった脂を吸わせるかのようにエノキを投入する。もう、エノキの豚油揚げ。恐ろしや。
胡麻の葉とチャプチェを重ねてその上に脂の乗った熱々の豚、さらに味噌やらを乗せて食べると、なんとも美味しい。とまらん。たまらん。
渡蟹の入った豆腐チゲも寒くなってきた季節には嬉しい一品。
米や味噌の値段はこの2年で40%近くも上がってクレイジーだと言っていた。キムチやナウルも作るのに手がかかるわりに無料で出されることが当然の期待値だから大変。
文大統領の政策で最低賃金は大幅に引き上げられたはずだけれども、非正規雇用は増え、残業時間も厳しく制限され、近郊都市の労働者の平均所得は下がっている。
ソウル中心部は賃料が高騰し続けて二世帯同居でなければ家を持てなくなってきている。
狭い団地の中の遊び場で息子や娘と遊んでいる他の子に対して、あなたはどこの棟に住んでるの?お父さんは何の車に乗っているの?なんて聞く人もいるのだとか。「狭い世界の中での背比べとマウンティングにうんざりする。私の友人の周囲の多くの人が韓国では子育てをしたくないと感じるようになっている」と嘆く。日本でタワーマンションのマウンティングに通じる話だな、と思った。
あれこれ、お互いの近況をアップデートし合って3時間が過ぎた。景気や世間の話となると文句も多くなるが、家族やパートナーの話、お互いが若かった頃の話は前向きで楽しい。
料理が好きな友人は多いが、自ら料理屋を開く人は少ない。生計を立てられるように利益を出して繁盛させて。大したもんだ。学生からの友人に料理屋がいるのは嬉しいし誇らしい。
ちなみに韓国の友人には抹茶攻め。茶道用の上等な抹茶、甘くない粉末緑茶、ミルクと砂糖の入った甘い粉末抹茶、抹茶キットカットに抹茶メルティーキッス。そして物産展で買えた大島産椿油を利かせた大島椿どら焼き。さらに京都の「玉乃光」大吟醸酒と升に硝子酒器。韓国の友人は私達が美味しいと思うものを大抵、喜んでくれる。そういえば、私の家で振る舞った鰻の炊き込み土鍋御飯が美味しかったと言ってくれていたものな。