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神域から湧出する掛け流し湯
- ここより厳かな風呂を知らない
- 眼に効くという明礬温泉
- 石仏、神箱、御堂、胴鐘
- 無駄のない清廉な廊下、座敷
- 4時間ひたすら湯、読書、湯
- 静けさの3000円の贅沢
- 館内、どこも写真の被写体だらけ
- 個人的最良温泉十選認定
湯治場棟は大きな「く」の字を描くように建ち、広々とした中庭がある。
旧本館と湯治棟は長い長い廊下で繋がっており、その先に湯屋がある。調度品のセンスが抜群に良くて、廊下の床も左右端が洗われた玉石敷きだったりと楽しませてくれる。あえて風呂上がりに裸足で歩くと気持ちよく、それを意図した玉石だと思った。
主張しない照明もレトロな乳白ガラス球を並べるだけ。余計なものがなくてなんとも清々しい。
殺風景ではない。煩くならない、それでいて寒々しくならない適切さで家具、陶器、実モノが飾られている。
ここに聖母像をもってくるか。本来、ここにはあまりにも異質なものなはずなのにここ以外にないだろうという当然の風情で収まっている。
12月、1月、3月は10:00~16:00の営業、4~11月は10:00~17:00の営業、そして雪深くなる2月は休みだそうだ。あくまでも日帰り湯治という趣旨を貫いており4時間利用できる個室が付いてくるのだが、2500円の畳部屋、広縁のついた3100円の部屋、そして2面に広縁のついた4000円の部屋が合計15部屋ある。冬季は6時間の営業時間の間、各組が4時間利用した後は入れ替えできないので1日に15組程度の客しか実質受け入れていないことになる。
通していただいたのは広縁に二人がけのテーブルの置かれた和室。電気カーペットもガスストーブも置かれて湯冷めして風邪をひく心配はない。湯沸かしも急須もある。
おお、いい感じだ。読むには暗くないけれども明るすぎることもなく陰翳が綺麗。
窓を開けると、本館母屋が見えた。
畳に寝転び、ビーズクッションに身を埋め、窓際広縁の藤椅子に腰をかけ。転々と場所や体制を変えながら持ち込んだ本を読む。
休憩室という15:00以降の立ち寄り客を含めて誰でも利用できる大きな部屋がある。三和土には4人掛けのテーブルと椅子、マッサージ機が二台。大きく解放された窓を前に、畳にはビーズクッションに体を埋めて寛ぐことができる。
冬に全面窓を全開放。なんとも清々しい。
ここでも読み進める。新緑の季節も爽やかなのだろうな。
ここがまさに湯治場でかつては共同炊事していた頃の名残りの竃が保存されている。今は火が入ることもなく静まり返っている。
黒の表情が豊か。普段はiPhoneで手軽に撮っているのだが、予感がして今回は少しばかり上等なコンパクトデジタルカメラを持参して秀明館では撮影している。おそらくiPhoneでは黒はこんな風には撮れない。
洗い場に流れ続ける湧き水。
降ろされた青銅鐘の存在感。
ここにも美しく艶やかで深い黒がいた。名は「すず」。人懐こい娘だった。
唯一の2階の客室を拝見。宿泊部屋というより、応接間だ。古い作りをそのまま残し、家具や調度品もそのまま使い続けている年季モノなのだが、清潔感が損なわれていないのが感心する。
なかなか中央にだけ板天井は貼らないものだよな。
もう一つの洋室休憩室。腰板が張り巡らされ、深いビロード張りのソファが置かれてこれはこれで居心地が良い。
まだ結婚する前の彼女と、二人でいても沈黙が心地よいぐらい関係が深くなり、そろそろ結婚もどうしようかなんて頃に、二人して来たかった。
で、秀明館を後にする瞬間、ああ、結婚しよう、と心の中で決めたりするわけだ。
そう、妄想。
秀明館の風呂、しつらえ、風情、全てに対しての最大限の賛辞。10年後、20年後、30年後にも再訪したい。何か大きな決断で悩みたい時には、ここで熟考するのが良いだろう。