杭州Alibaba訪問雑記

中国の進歩の速さには目眩がする思い。その中核にいるのはテンセントとアリババなのは間違いない。杭州のAlibaba Cloudを訪ねた。

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入口には巨大なスクリーンに上下対となる世界が映し出されている。上の反転した世界は仮想空間世界で、どのような商取引プラットホームでどのような商品が購入されているかがリアルタイムで視覚化されている。下の世界は実店舗のネットワークや店舗分布を示している。上の反転した仮想空間世界と下の実世界の間を常に双方向に行き来があり、どれだけ双方が当たり前のように両輪として機能しているかが実感できる。

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アリババがパッケージ化し導入を始めている電子化された都市が驚異的でかつ脅威的だ。街中の全ての路上監視カメラがアリババクラウドに連結され、渋滞状況のリアルタイム監視がなされ、信号切替の最適化がなされているという。さらには交通事故があれば画像解析から事故の検出とアラートが発せられ、即時の早急な病院への救急車派遣指令へと繋がるという。同様に危険運転車輌などは網羅された監視カメラ間で捕捉され、公安に即時通報され取り締まられることで治安が向上するとの説明だ。ユートピア的説明がなされるが、ディストピア的シナリオを想像することも可能だ。

「意図しない」システムエラーによって、とある政敵の乗った車に対し信号が機能せずに渋滞が起こり、事故が起こり、救急車が派遣されないことも起こり得るのか。

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Alibabaが開発し導入している地下鉄券売機は音声でチケットを購入することができる。訛りや不正確な発音もAIで正確な駅名を補正し推測する。埋め込まれたカメラで顔や口の動きを画像認識して認識精度の向上を図っている。音声認識で購入していなくても購入者の顔が撮影されるのだろう。これまた公安のために転用されるのだろうか。


各種巨大商取引プラットホーム、決済金融システム、物流を通じて得られるビッグデータがアリババクラウドに一元化されている。毎日、新規に600万件もの新商品が登録されるにあたって、不法な商品が天猫市場に登録されることをAIでブロックしている。さらには不法商品の販売を試みた末端の業者をブロックするだけでなく業者の登録情報、物流や会社間の金の流れから関連会社を補足し、不法商品の製造会社を特定し公安に通報するところまでをAIが既に可能にしている。原因の根絶だ。

 

懸念はこの巨大な相互連結したインフラに対して恣意的な操作や介入が可能なマスターアドミン的な存在の是非や有無なのだろうな。


出てくる幹部役員がみな、流暢な英語を話せるのが印象的だった。実務能力は高いが英語は苦手なんて人がいない。あるいは、幹部役員の中に人選に困らないぐらい英語で議論ができる人が多数。


ビジターセンター入口の壁一面に市井の風俗画が描かれているのだけれども、所々にIT業界の偉人達が描かれていて面白い。

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先生、ジャック マー氏。

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Facebookとパソコンに書かれているからザッカーバーグ氏。

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Alfa Go

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Appleジョブズ氏。

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松下電器の松下氏も。日本人としては誇らしい。

 

アリババが運営するヘマ(Hema、盒馬鮮生)というスーパーマーケットを訪れた。Eコマースと実店舗の融合を実現した店舗だ。AliPayしか受け付けず現金もクレジットカードも使えない、Alibabaエコシステム内に入れない人は拒絶される。

 

商品のQRコードを読み取れば産地などの商品情報が表示される。Hemaで買う商品は店舗から半径3km以内ならば30分以内で配送される。商品は店舗を訪れて選んでも、店舗に行かずしてアプリ上で購入して配送手配するのでも構わない。

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例えば店頭の生簀でエビのQRコードを読み取って調べると、エビを使った人気レシピがアプリに表示され、さらにはそのレシピの料理を作るのに必要な具材も表示される。生鮮食品ならば現物を肉眼で確認してから買っても良いし、面倒ならばアプリ上で購入してしまっても良い。

 

日本の家電量販店などでは店頭で説明を聞き、現物を見てから家に帰って他のECサイトで購入することが家電量販店にとって問題になっていたが、Alibabaではそのような購買行動が設計され促進されている。

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現物を見て買い物をし、購入と配送はアプリで手配して手ぶらで帰る。もし、この死にかけたエビではなく元気に泳ぎ回っているこの個体が欲しいという場合には、それだけを買って持ち帰っても良い。

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さらには食材を選んでその場で調理してもらい、フードコートで食べることも可能だ。110RMBの伊勢海老を10分ほどで調理してもらうことができた。

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スマートシティにしろ、ヘマのような新業態スーパーにしろ、囲われた中国国内だけに限定された話ではなくなっている。ジャックマーはマレーシアのデジタル経済アドバイザーに就いており、インドネシアでもEコマースアドバイザーの地位にある。これらは飾りではなく、政府の閣僚級な要職でそれら国々への物流、Eコマース、スマートシティなどの都市インフラなどの導入政策を主体的に推進している。Alibabaはあらゆる小売商材の中国国内24時間配送、世界中72時間内配送を目標に掲げて走り出している。東南アジア最大のEコマースサイトも実質Alibaba傘下となり、日本と韓国だけがAlibabaエコシステムから取り残されているように見える。やがては取り込まれるのかもしれないが。

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私の子供達が生きる新時代は私が生きてきた旧世界とは大きく異なりそうだ。取り残された老人の気分になる。想像し難かったものが、当たり前になっていく、そんなさらに大きな変化の過渡期にいることを実感する。そしてその変化は国外よりも日本にいると感じづらい現状がある。

 

全米ライフル協会なんかが跋扈しているアメリカの覇権の時代はいよいよ終わりの始まりなのかもしれない。