ティエンムー寺院をのんびりと歩いていたら、ふと視線が惹き寄せられた。木陰に妖艶なただならぬ雰囲気。
木蓮の最も色の濃い部分のような臙脂紫色の花が椿のように塊で落ちている。椿の雌蕊のように見える部分が真横に向いている。踏まれたわけでもなく、一方行を向いている。
株元には無数の花が落ちているのだが、ひっくり返った花の塊は中央に穴が空いており、それがコントラストの強烈な目のようで、これまた普通ならざる気配。
それが無数に地を埋めている。
花の塊を手に取って眺めると、花芯は完全に真横を向いている。カスタネットのような形だ。
別の花の塊を手に取ると、こちらも同様。
どうやらカスタネットで言うところの上側に雄蕊、下側に雌蕊が生えている。自家受粉性の花のようだ。
さして葡萄状の花枝の根元から先に向けて花が咲いていくのも面白い。
非点対称な花は枝の先端に向かって指向性を持って咲いていることがわかった。
花が落ちる前に、茎が雌蕊を貫通していた。虫などに頼らずとも、物理作用で受粉するようだ。落ちていた花の中央の穴は茎が付いていた箇所らしい。
バレーボールほどの褐色の大きな実をつけていた。近くのベトナム人曰く、名前も知らないワイルドフラワーのワイルドフルーツだと。この実は食べないので名前は知らないそうだ。
ティエンムー寺院の僧房の庭にある今まで見たこともない形態の花だった。