藝祭 2019年。神輿と七宝と鍛金のぐい呑

午前半休で駆け足で東京藝術大学の学園祭である藝祭を覗いた。

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藝祭の名物は創作神輿。数年前から8基から4基に減ってしまったがその分、それぞれの演出時間が伸びて充実したようにも思う。大賞の神輿はスチームパンクの船のような奴だった。

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神輿の造形だけでいうと工芸、日本画、楽理、邦楽の神輿が古典的で和のモチーフで大変好みだ。

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過去の白蛇だったり、猿だったり。あんな風に陶土で造形できたらさぞ気持ち良いだろうな、と繰り返し思う。

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工芸科と日本画科の手にかかるとここまでのものになるのか。塗装も美しすぎる。

 

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造形だけならこれが大賞だろう、と思うのだがコンセプトやパフォーマンスも含めての評価なのだろう。楽理、邦楽だとパフォーマンスは大人しくなりがち。

 

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なんだか、陶での塑像をやりたくなってきた。もっと時間が要るに違いないけれども。

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恐竜と翼竜が相対している神輿は油画声楽建築指揮オルガン打楽器などのチーム。

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ステージだけでなく後ろの客にも配慮されたスペースを使い切った見事なパフォーマンス。毎年、毎年、神輿の取り巻きの踊りが充実している傾向。

 

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馬頭と牛頭の神輿は彫刻、管楽器、先端、音環、ピアノ。

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駆け足で館内の展示を見て回る。

菊池貴子さんの作品で、キャンパス地に七宝のレモンを重ねたものが素晴らしかった。

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ヘタの部分すら0.2〜3mmではなかろうかという細さの銀線で幾重にも輪郭が描かれていて、レモンのつぶつぶはツヤを持って瑞々しく輝く。

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近くに寄れば寄るほどその作り込まれた小さな世界に引き込まれていく。白く柔らかい内皮と表面の黄褐色とのグラデーションなどよく表現できたものだ。

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こちらが下絵。下絵の段階で私にとっては立派な小作品。

 

さらに紫陽花も良い。花弁一枚、一枚の中の淡いグラデーションが繊細で優雅。

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技術論で言えば、このような陶肌を作陶でもできるはずなのだが、見当がつかない。このぐらい技術と表現でぶっちぎってほしい。

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木島侃志さんの「声明」。額から烟るように出てきている瘴気のようなものはなんだろう。

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怖くて自宅には飾れない。耳、口、目という顔の穴が瑠璃で彩られ、信仰の狂気を描いているのか、かなりの迫力で畏怖を感じさせる。

 

空間の中で引き立っていたのがこの作品。

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私はイケメンが好きなわけではないけれども、コントラストが効いていてカッコいい。上半身裸のイケメンに黒猫なんて、好きな要素だらけで惹かれる女性ファンも多いのではないか。私は同じタッチで上半身裸の美人が短く刈り込んだトイプードルを抱えた絵が欲しい。

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油画で油絵を描いている人は少ない。日本画科の展示が素人にはどんな光景の美を描きたいのかがわかりやすくて一番楽しめるように思う。

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サボテン!逆光で眺める窓辺に多肉植物。自宅で気を緩めた女性の何気ない一瞬。

 

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野原望愛さんの「朝顔

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例年、何を伝えたいのか掴めない密度が低く感じられる絵というのがそれなりにいくつもある。今までならば素通りしていただろう類だけれども、しばらく釘付けになった作品があった。

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高校生の時からの絵が描けなくなった苦しみが文章で赤裸々にぶつけられていた。作品にここまで解説をつけてしまうのはどうなのかわからないけれども、観る人の感情を惹起する作品だ。

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美術学校に通って高度なデッサンやらを叩き込まれ、当たり前のように浪人し、入る大学すらないかもしれないという社会的地位の不安定さに怯え背水の陣の心境で美大受験に臨んでなんとか受かる。そしていざ、受かってみたら何を描きたいのかがわからなくなっている。自分の身の上に容易に起きていたかもしれないシナリオ。

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美大に入ったからには美術で身を立てないといけないという強迫観念、迷いのない同級生の力作を観てますます追い詰められていく。10年に1人、天才が輩出できればそれで良いというスタンスの藝大は生徒の進路の面倒などみない。モラトリアムに嵌った学生を救済してくれはしない。半端な人間には美大に受かってからのほうがしんどいという話もある。

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私は素人が基本を無視してデッサンの狂ったような鹿の植木鉢や虫の植木鉢を好き勝手に造っているのだから気楽なものだ。純粋に楽しんで好きで作れている。定石や世間の好みに合わせる必要など皆無で自分が欲しいものを好き勝手に作っている。

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高校生ぐらいでトチ狂って美大を目指すようなことがなくて良かった。幸いなことにそんな発想すらわかなかった。絵を描かずにいられない、表現をせずにはいられないような沸き立つ情動で作品作りに没頭できる人でないと美大は逃げ場のない苦界。

あちらの世界に足を踏み込まなかったからこそ、私はアートを楽しめているのだなと強く思う。これもある種の藝大生への尊敬の現れだ。

 

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ひたすら東西のマッチョ男の絵を描いている女性もいた。ノートがマッチョのデッサンで埋め尽くされている。楽しそう。

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演奏も素晴らしいのだよね。

 

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上野駅へ戻る途中、藝大生のハンドメイドマーケットを舐めるように通り過ぎる。

 

鍛金のぐい呑を使ってらっしゃる方がいて、その技術の高さ、ぐい呑の槌跡の美しさに惚れた。熱伝導率が高いのでキンキンに冷やした日本酒が最高とのこと。内側には錫を塗っているとのこと。口当たりがまろやかになります、とのこと。そんなこと言われたら買う。

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オーダーしたら底に名入れしてくれたり、錫が剥げたら塗り直しをしてくれたりもするらしい。

 

今年は指は買わずに終わってしまった。f:id:mangokyoto:20190907073421j:plain