COVID19下でこそ見応えのある映画数本

幸せの絶頂で悲劇の名作を観てもいまいち味わい尽くせないように、その時の世相や状況でより味わい深くなる映画があるのだな、と思った数作。

 

コンテイジョン Contagion ☆☆☆☆

COVID19後に作られたと思うような、8年前に既にCOVID19を予見していたかのようなパンデミック映画。再度脚光を浴びている話題作だというのも納得。

「実効再生産数」だとか「医療崩壊」だとか、コロナ禍で初めて聞いた馴染みの専門用語が頻出し、今現在、起きていることの復習と全体理解に最適。感染の経路調査により不倫がバレるだとか、モノを介した感染の現場描写だとか、やがて暴動や社会不安に繋がる様、都市封鎖、開発されたワクチンを誰から接種させるかなど私たちが経験したこと、これから経験していくであろうことが描かれていて驚嘆する。単に娯楽パニック映画としてもテンポよく楽しんで見られる。

アメリカでワクチン接種が始まることでこのハリウッド映画は幕を閉じる。世界的感染拡大後に大国同士が非難し合うなど現実世界の方がフィクション映画よりも醜いとも言える。アメリカで開発されたワクチンが自由主義陣営各国、同盟国、敵対国などにどのように提供されていくのか。はたまたそこに協調はなく敵対国も自らワクチン開発するしかないのか。ここらへんは全く映画では描かれない。

マット・デイモンケイト・ウィンスレットローレンス・フィッシュバーンマリオン・コティヤールグウィネス・パルトロージュード・ロウなど出演者がやたら豪華。主役を張れる役者は脇役でも個性が光る。

コンテイジョン (字幕版)

コンテイジョン (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

ディスタービア Disturbia ☆☆☆

自宅軟禁処分を課せられ、自宅から3か月間も外出できなくなった主人公が巻き込まれる隣人トラブル。これもCOVID19で不要不急の外出を禁じられた生活が長引くなかで、より一層の親近感をもって観られる映画。

多くは説明しないが2007年にアメリカで大ヒットしたおすすめ娯楽サスペンス。

ヒロインのサラ・ローマーはハリウッド版「呪怨 パンデミック」でデビューし、後に「HACHI 約束の犬」にも出演しているが何かそういうものに縁があるのだろうか。

ディスタービア (字幕版)

ディスタービア (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

コロニア ☆☆

フィクションのサスペンスかと思ったがまさか史実に基づいているとは。エマ・ワトソンが演じるからには単なる娯楽作ではなさそうだとは思ったけれども。

一度入所したら二度と出られないといわれたコロニーでの束縛、虐待、人権侵害がCOVID19下で共感しうる要素かもしれない。

迂闊なことを書けないが映画鑑賞後に調べれば調べるほど人類の救いの無さを感じる。 

  • チリにおける元ナチス党員でヒトラー崇拝者が建設したドイツ人コロニー。
  • ピノチェト政権と結託し拷問施設として政敵や秘密警察に捕まえられた人達を拷問していた。 
  • 長年、元ナチス党員の設立者の元で児童への性的虐待が行われていた。
  • チリ国内で発見された民間としては最大の兵器庫には戦車や火器、弾薬が大量に保管され、政治犯への人体実験も行われていた。
  • 現在もコロニーは継続されており、ドイツ料理を提供するレストランや宿泊施設が外部開放され観光施設として営業しているとのこと。これが一番驚いた。
  • 映画と関係ない余談だがイギリス元首相サッチャーピノチェトを盟友と位置づけ、ピノチェトが亡くなった際にもその死を惜しんだ声明を出している。ピノチェトはチリの長期的な貧窮と圧政の元凶であり大勢を粛清した独裁者だと理解している一方で、自由、人権、民主主義を掲げる英国の首相が盟友だの恩人だのと持ち上げている。フォークランド紛争で英国支持に回ったからだとしても、私には理解し難い。 

次々とコロニーの悪事が明るみに出たのが2006年前後のことらしく、そこまで大昔の話ではない。私は今日に至るまで知らず、随分と無知に生きてたのだな、と思った。 

コロニア(字幕版)

コロニア(字幕版)

  • 発売日: 2017/02/08
  • メディア: Prime Video
 

きっとうまくいく  3 Idiots ☆☆☆☆

2009年当時のインド映画歴代興行収入No1ヒット作。COVID19で環境が激変するなかで自分の仕事や人生の価値観を再考するのには良い映画かもしれない。

  • 男ならエンジニア、女なら医者
  • 経済的豊かさの為の良い職、良い職の為の良い学歴という強固な先入観
  • 貧困から脱出するために家族親族の期待を一身に背負う若者
  • 教育が原因の都市部若者の間で非常に高い自殺率
  • 社会にはびこる拝金主義

これらの状況を風刺し、学問は何のためか、創造とは何か、人生に大切なことは何かを問いかける、男の友情物語であり、恋愛物語であり、悲劇であり、喜劇であり、ミュージカルでコメディーなボリウッド映画。世界中で大ヒットしたのも納得のとてもよくできた映画で見て損はない。邦画でいえば「ALWAYS 三丁目の夕日」のような映画。

〇〇ドルもした靴だぞ、服だぞ、と成金に叫ばさせるくだりはみていて痛快。

この作品のテーマを浮き彫りにする象徴的な人物としてチャトゥルという男が登場する。米系大企業のヴァイスプレジデントとして出世しランボルギーニを乗り回し、自分のほうが主人公の人生よりも成功していると証明しようと躍起になるチャトゥル。工科大学時代は学問の目的に無頓着に良い成績の為に丸暗記をし、他を蹴落とし、教授のご機嫌を取り、主席は逃すものの2位の成績で卒業する憎まれ役だ。学歴を極められなかった人達、高給な大企業の職に就けなかった人達、経済的に恵まれない人達、現在のインドの大多数の人たち、そしてこの映画に夢中になった大勢の観客はそんなチャトゥルを嗤い、溜飲を下すのかもしれない。そして翌日、チャトゥルのような経済成功者が暴力的に力をもった日常世界に帰っていくのだろう。

 

人生を生きたいように生きていける強さをもった人は少ない。理想論は映画の通りだけれども現実はそんな簡単にはいかないんだ、せめて映画の中で夢をみさせてよ、と現実逃避の娯楽作として消費して終わってしまうのが大半なのだろうな。好きなように生きていけるようになるためには自他を比較しない芯を持ち、それで食べていけるようになるまでの抜きんでた能力、そしてそこに至るまでの忍耐や犠牲など様々なものを伴う。家族を持つならば伴侶を惹きつける魅力、日常の不自由と折り合う調整力なども求められる。思う通りにいかなかったとしても周囲のせいにしたり恨んだりしてもいけない。評価指標の明確な世界で努力を積み重ねるよりも大変かもしれない。

そういえば私の知っている優秀なインド人は工科大学を出て就職した後もMBAを取ったり、その後マーケティング職やらにキャリアシフトして上昇し続ける人が確かに多い印象。貪欲で野心的で挑戦をおそれず、その裏ではまわりが怠惰や娯楽に耽る間に努力を続けてきた人達なのも事実。

 

主人公のように強烈な才能とバランス感覚と確固たる価値観に恵まれた人間はチャトゥルのような超競争社会の勝組である経済エリートすら持ち合わせていないものを勝ち取った「さらに上位の勝ち組」というだけだったりしないだろうか。私たち凡人には勝ち組エリートよりもさらに遠い存在が、あたかも私たちにも手が届く存在のように描かれているのは罪深い。主人公のような人生の成功を目指すのはさらに狭き門かもしれないが、そこを目指す覚悟を決められるか。

アールイスウェル 

きっと、うまくいく(字幕版)

きっと、うまくいく(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

以下はCOVID19と関係ない単なる備忘録。

 

アンストッパブル Unstoppable ☆☆☆

実話に基づいた劇薬を積んだ暴走貨物列車 から市街地を救うヒーロー映画。

採った作戦が悉く失敗したガルビンはクビ。連携しながら陣頭指揮をとったコニーはVPに出世。窮地を現場で救った フランクは解雇が撤回され昇進、その後円満退職。作業手順の過失から問題を起こしたデューイは自主退社後、ファーストフード業界に転職。

なんだかわかりやすすぎる処分と昇進の明暗。実名でさらされ、大勢に記憶され続けるのはしんどすぎないか。

操車場長のコニーは早々に状況を諦めて人口密度の少ない農地区画で列車を脱線させることを会社に進言していた。実際そうなったならば農地は劇薬で汚染されただろうし、被害者も少ないとはいえ出ただろうし、会社の経済的損失は莫大になったと思う。問題解決策を立案し実行したのはフランクとウィルソンであってコニーは他の策が尽きた状況下でバックアップにまわっていたに過ぎないのに、事件解決後に最も報われているのはコニーのように思える。なんとなく美談でまとめられているが、おかしくないか。 

アンストッパブル (字幕版)

アンストッパブル (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

マップ・トゥ・ザ・スターズ Maps to the Stars ★

「クラッシュ」でトラウマ的記憶を植え付けられたデビッド・クローネンバーグの作品。

私が想像する以上にハリウッド映画やスターはアメリカ人にとって身近で興味対象なセレブリティなのだろうな。

火傷を負った女性にどこか見覚えがあると感じたが、なんと韓国の名作「オールドボーイ」のパクチャヌク監督によるハリウッドデビュー作「イノセントガーデン」でサイコパスな美少女を演じたミア・ワシコウスキ。2年であの浮世離れした少女のオーラは無くなってしまったようにも思うが、そう感じさせる平凡で幸薄い娘を見事な演技力で演じているというべきなのか。

虚栄と虚構を風刺的に描いているのだろうけれども、件の少女や母親は薬物による錯覚なのか説明もない。見終わったあとの納得感は乏しい。

 

「私は誰と知り合いよ」マウンティング競争。

金を持ってから、何をするか、何に使うか。

クローネンバーグば観賞後に胃もたれさせる天才。

『マップ・トゥ・ザ・スターズ』 [DVD]

『マップ・トゥ・ザ・スターズ』 [DVD]

  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: DVD
 

 

理由 ★

「砂の塔」のようなタワーマンションに集まる虚栄心を描いた宮部みゆき著の直木賞受賞作小説の映画化という触れ込みで興味を持って観てみた。

 

どちらかというと殺人事件が結びつける人々の縁が主題でタワーマンションという新しい居住形態やステータスが引き起こす虚栄心、コンプレックス、優越感のようなものは深掘りされていなかった。今やタワマンと聞けば定番となりつつある低層階と高層階の確執も描かれてはいない。

登場人物の語り口調に違和感を感じる。ベストセラー小説を忠実に実写化するがあまりにテンポも悪く冗長な映画になってしまった印象。小説と映画では観客が費やせる時間と求められるテンポが異なり、そのまま映像化すればよいのではないことがよくわかる。

 

玩具屋の老いた主人役の麿赤兒が登場シーンは少ないものの、かなりの存在感だった。この人、高円寺大道芸祭で私が好きな演目、ゴールデンゴールズの母体、前衛舞踏の大駱駝艦を立ち上げた舞踏家でもあり密かにファンである。

伊藤歩さん、目が綺麗だな。 

多部未華子さんの初出演作品だそうだ。まさか、いやこの個性的な風貌はと思ったらやはりそうだった。宮崎あおいさんといい、その後活躍する子役は既に目立つのだね。