突如、思い立って有給休暇を取ることにした。いざ休みを取ろうと思ったのにやりたいことがすぐに思い浮かばないことにショックだった。東京国立博物館も良いが、今は事前予約が必要だったっけ。天気も良いし奥多摩に行こうか。いや、天気は大丈夫だろうか。急に有給休暇を取ることにしたので電波が届かないところに行くのは危険か。そんな逡巡をしているうちに貴重な時間が過ぎてしまってなんともったいないことか。
休みたい、休みたいと思っていたくせに休んだら何をしたかったのだっけ。確か休みに一人でやりたいことリストをどこかにメモしていたのに、それもみつからない。
結局、吉祥寺から高円寺までカフェやらバルやら雑貨屋やらを巡りながら歩くことにしてみた。
まずは吉祥寺駅前近くの「カフェ ロシアン」で昼食。ロシア料理、グルジア料理を出す人気店とのこと。開店早々、客が並んでいた。
ピロシキ。ロシア餃子みたいなものか。いや、肉入りパンか。パンはふわふわで中も肉汁たっぷりで美味だった。フードスタンドではなくレストラン品質で他のお客さんが食後にテイクアウトしていたのも頷ける。
ボルシチ。やはりロシアといえばボルシチだ。こちらもコクがあり、野菜たっぷりで適度に酸味もあり満足のいく一品だった。クリームチーズを溶かしながらさらにまったりとコクのある味に調整したりしながらライ麦パンを浸して楽しむ。そのうち、フルコースを食べに来てみたい。
r.gnavi.co.jpきちんと色補正して室内もボルシチも撮影すると鮮やかなピンク色で映えるらしい。客は若い女性ばかりかと思いきや、本格的なロシア料理目当ての年輩客も複数名いた。聞き耳を立てた会話の断片によれば昔、ロシアと縁のある仕事をしていて懐かしんで食べに来た様子。
緊急事態宣言下だからか、平日の昼間だからか。街中は空いている。
吉祥寺西公園まで歩くと、桜が咲いていた。枝ぶりが横に広がらずに上に伸びすぎているし、桜にしては幹の肌感に違和感があった。この季節に咲く白い桜は珍しい。
そう思って近づくとなんとモクレンに似たコブシだった。こんな立派なコブシは見たことがない。
吉祥寺西公園の近くにはお洒落な雑貨屋やビニールシートを貸し出している豆腐ドーナツ屋などあれこれあって面白い。
「ビルボード」というギフトカード専門店に立ち寄った。誕生日、結婚や出産などのテーマごとのギフトカードはもちろんのこと、ここでしか見ないような欧米から輸入した様々なジャンルのポストカード、メッセージカードも売られている。吉祥寺らしい店だ。
なんだかトイレに張りたくなって購入した。黒猫も真っ黒な塗りつぶしではないのが味がある。
季節替わりのポストカードを張っても楽しいかもしれない。これは無論、春だ。背景のストーリーをあれこれ想像したくなるような 絵が目の前にあるのも乙。
こんなのも。ご主人の声をみんなで聴いているのだろうか。白黒犬専用の劇場だろうか。一匹だけ茶色いシェパードが紛れ込んでいる。白黒犬もほとんどがジャックラッセルテリアなのだが、最前列に一匹だけパグが紛れている。トイレで便座に座り独り。ぼーっと生産性のない空想に耽る為の仕掛け。
オバケのような大輪の椿。なんという品種だろう。
吉祥寺駅から徒歩数分の立地は地価の高い一等地だろうに、随分と年季の入った家屋が生き残っているのを見つけた。主が変わっても巧くリフォームして古民家カフェなりとして残してほしい。
そんな古色溢れる民家の前には立派な多肉植物の鉢があった。アエオニウムは「伊達法師」、セネキオは「美空鉾」だろうか。
吉祥寺南町は40~50坪の敷地面積の一軒家が多く、それも殆どが建売ではなく注文住宅の個性的な豪邸が多いので散策しながら眺めるのも楽しい。住宅街の玄関先にて。品種名はわからないが花の奇麗なサボテンなのだろう。後ろに控える兵馬俑人形が、厳粛な態度で客人を迎え入れているようでユーモアがある。
吉祥寺南町から西荻窪へと入り、松庵文庫に立ち寄った。立派な古民家をカフェに転用した癒しスポット。あちらこちらに美意識を感じる。
糖分補給。ラムレーズンのチーズケーキは一切れが大きく、これはと思うほど美味。西荻窪の松庵文庫とRe:gen堂は私にとっていつだって期待を裏切らない味も雰囲気も良い古民家カフェのツートップ。高円寺にはこの水準の和風古民家カフェがないのが惜しまれる。
スリップウェアのような釉薬が滲んで模様が描かれた皿は泥漿によるものではなく釉流れによるもの。中央に乗せるケーキを誇張するようで面白い。
鮮やかな桃色の椿。道路の白線が良い感じ。
荻窪の陸橋を超えたところにある青梅街道沿いの農協直売所で多肉植物が売られていた。とても締まった作りの「茜の塔」が300円。まだまだ歩く予定なのに衝動買いしてしまった。案外、「茜の塔」はホームセンターなどでも売っていないのだよ。見ていたら前から欲しかったような気がしてきた。
この密度の高い幾何学的な相似形。小さな蠅取蜘蛛鉢に丁度良いのではないか。
さらにはアロエ「ラウイー」もみつけてしまった。「ラウイー」自体は珍しくもないかもしれないが、こんなに葉の縁の禾が白く幅広い株はなかなか見かけない。
白のラウイー、赤のクリスマスキャロルで紅白対比させたい。そうやって理由を見つけては買ってしまう。右脳で衝動買いを決定して、左脳で正当化するというやつだ。これは制作中の山羊人形鉢に乗せることにしよう。
そしてなかなか立派に群生しつつあるクラッスラ「メセンブリアンセモイデス」だろうか。ブルビネ「メセンブリアントイデス」と名前が似て紛らわしい。こちらも葉の間がぎゅっと締まった良株。300円だし衝動買いも仕方ない。高橋誠さんという生産者名が書かれているのだが、ご自宅訪問したい。
阿佐ヶ谷の商店街まで歩いてきた。ここ最近で見た椿の光景で一番だった。椿の品種は「月光」だと思われる。西陽を背負って紅く花びらが輝く姿は息を飲む美しさだった。チェコに出張した際に、買って妻におくったボヘミアンガーネットの小さなネックレスの少し暗い赤を思い出した。
ついでに西陽がレーザー光線のように写っているのも面白い。
昨年夏ごろに新規開店して気になっていたカフェに立ち寄った。その名も「天文図館」。R座読書房のような匂いを感じる店内だが、こちらは17時開店で軽食もお酒も出している。
正統派メロンクリームソーダを頼んでみた。買って持ち歩いているムック雑誌を読みながら、あれこれ思索に耽る時間はとても癒される。ああ、旅をしたい。
総歩行距離12km。中野、吉祥寺、西荻窪、荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺。
国内の行きたい景勝地、観光地。
やりたいこと。
近場の行きたい店。
作りたい陶器のイメージ。
なじみのない分野のあれこれ魅力的なもの。
煩悩や欲求を刺激してくれる休暇日となった。
家に引きこもっていてはもったいないと思った。世の中には魅力的なものがあちらこちらに散らばっているのだから。