地方への旅行の楽しみの一つは地酒を飲むこと、買って帰ること。普段立ち寄る高円寺の酒屋や都心の百貨店で扱っていないような地酒で美味しいものが見つかると嬉しい。
本多忠勝が整備した大多喜の城下町に残る唯一の酒蔵、豊の鶴酒造。
この町で唯一の酒蔵が1781~1789年ごろ創業し、有形文化財登録された風格のある建物で、全国新酒鑑評会で金賞2回入賞2回の美味しいお酒を造る蔵だなんて幸せなことだ。歴史があるというだけで今作られているお酒は別段、美味しくないなんてことも容易にあるのだから。
今も現役の煉瓦造りの煙突が聳え立つ。酒米を蒸す際に火を焚くのに使うそうだ。十七代目当主田嶋さんが図らずも写ってしまった。 隣の母屋の建具も素晴らしい。
入口から中をのぞかせて頂いた。奥に仕込みタンクが並んでいるのが見える。神社のような巨大な注連縄を吊っているのを初めてみた。
ずらりと並ぶ豊の鶴酒造のお酒。十五代伊兵衛も気になる。さらに当主が機が熟したと思ったら十七代という銘のお酒を出すのだろうか。唯一、大多喜城ではない「銭神」という銘が気になったがこちらはもともとの創業地が町内の銭神という地名だったからだそうで、廃藩置県時に現在地に転居されたそうだ。
購入したのは右端の大多喜城純米酒しぼりたて無濾過生原酒。当主自らが冷蔵庫から瓶を取り出し、糊でラベルを手貼りして渡してくれた。保冷剤替わりと称してよく冷えた酒粕をつけてくださった。お子さんに作るなら2回ほど沸騰させて牛乳や豆乳を加えると飲みやすいですよ、とのこと。ご親切痛み入る。
後から振り返るとせっかく蔵元を訪れたのだからさらに生産量が少なく、変色しやすくて保管が難しいという桃色にごり酒を買えばよかったと思った。まさに春に似合うではないか。
さらに昔は「豊の鶴正宗」という銘柄もあったようだ。今は「豊の鶴」を止め、「大多喜城」一銘柄に絞り込んでいるそうだ。
女性よりも男性のほうが収集癖は強いそうで、私も例にもれず収集衝動が強い。幾度か全国の正宗を端から端まで飲んでラベルを集めたいと思ったことがある。桜正宗、菊正宗、達磨正宗、山形正宗、白隠正宗、キンシ正宗。。。比較的流通されているだけでもたくさん思い浮かぶし、まだ知らぬ地酒はたくさんあるに違いない。豊の鶴政宗を見てそんなことを思い出した。
飲んでみたら。。。美味いじゃないか。食中酒として飲みたい少し辛めのお酒をお勧めしてもらったのだが、期待を超える味だった。四合瓶で1100円。辛口といいながら米の旨味も感じられる旨辛というやつ。香りも立ちすぎず刺身にも合わせやすい。
この味で1100円は安すぎる。しかも、わざわざ蔵元へ来て一本しか持ち帰れない客には2000円程度の銘柄をお勧めしても誰も不満には思わないだろうに。真面目すぎるよ、当主さん。