「余計な良いもの」考。視線の抜けの効果を学ばせてくれた露天風呂の改悪。「エクシブ箱根離宮」

エクシブ箱根離宮宿泊備忘

  • 向かいの山まで眺望の広がる露天風呂の魅力が紅葉の木とライトアップで台無しになっていた。改悪から「視線の抜け」の効果の絶大さを知る。
  • 単体として良品だが全体構成として不要なものを取り除くのは難しい。
  • 富士屋ホテルフレンチシェフの腕を振るうイタリアン「La Bazza」がとても美味しい。予約必須。
  • 富士屋ホテルが大規模改装完了。いつか泊まりたい宿の一つだがエクシブ箱根離宮が安くて良すぎて難しい。
  • 箱根は渋滞や駐車場の不便も考えると公共交通機関での旅が楽。
  • 小学生低学年はUNOが最高に楽しい年頃。
  • 強羅ビールが柚子ピールが香って美味。

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週末の箱根逃亡。今回は車ではなく電車で行くことにした。新宿から小田急ロマンスカーに乗り、さらに箱根登山鉄道へ乗り継ぐ。

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箱根登山鉄道名物スイッチバック。ジグザグに進行方向を反転させながら急斜面を登っていく。

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数年ぶりのエクシブ箱根離宮。相も変わらず、期待通りの広々とした客室。今回は1号棟に泊まれたお陰でお風呂、食事処、ロビーも近く便利だった。

 

UNOやらオセロやらをレセプションで借りて家族で興じた。UNOで負けるだけで悔しくて嗚咽する下の子が可愛すぎる。

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長椅子の下にもコンセントがあって、タブレットスマホを充電しながら使えたりと快適。

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エクシブ箱根離宮webより拝借。

この山の眺めそのままの露天風呂があってそれがエクシブ箱根離宮の一番のお気に入りだった。日が暮れると山は巨大な黒いシルエットにしか見えず目を凝らしても黒いまま。それを眺め続けるとうっすらと濃淡が見えてきて、そんな中を山腹の林道を通る車のテールランプの赤が線を引いていく。向かいの山まで何も遮るもののない眺望が得難い開放感を与えてくれた。

しかし数年ぶりに来てみたら紅葉の木が植っていた。かつライトアップされることで視界が数メートル先の照らされた枝葉で容赦なく遮断されるようになった。向かいの山までの眺望が見事に殺されてしまっていることに驚いた。小川治兵衛が慟哭するかもしれないぐらいの台無しっぷり。

確かに谷と向かいの山まで何も遮ることのない眺望は夜には寂しいのかもしれない。目を凝らさないと一面の暗闇一色だ。しかしそこから視覚を開いて感じとる眺望の広がりと開放感という得難い価値を、嫌でも目につくわかりやすい紅葉のライトアップで消し去ってしまった。

私のエクシブ箱根離宮の一番好きな要素が無くなってしまったのは悲しいが、視線の抜けの効果の絶大さを逆説的に教えてくれた貴重な経験ともなった。

 

そういえば露天風呂の水面にナナフシの子供が浮かんでいて、テンションが上がったのだが子供達の反応は薄かった。残念ながらナナフシは既に溺死していた模様。

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朝、6時にまた露天風呂に入りに行った。夜だけの問題ではなく、明るい時間に見ても不満は消えない。山の稜線が紅葉で途切れ途切れになってしまっているのだ。

 

紅葉の木だけを見ると樹形も整った良い株で鮮やかな新緑の伊呂波紅葉と赤い葉の野村紅葉が対を成している。それ自体は「良いもの」であるはずだ。

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紅葉の木がそれ単体として良いものだけに、それがいかに露天風呂からの山の眺望を損ねてしまっているかが気付きにくくなっている。今後、山の眺望を取り戻すために紅葉を取り除く判断をすることはとても困難だと思う。それなりに意思決定する立場の誰かが明確に損なわれた眺望の魅力を説いてお金をかけて取り除かなければならないから。

 

少し普遍化する。単体で良いものがわかりやすく形をなして目の前にあると全体構成として害があってもそれを取り除くことは難しい。全体構成という言語化して説明が難しいことを、確信を持って説ける必要がある。

例)個人としては有能だが全体行動計画を乱して協調しない人。

例)再現性が低そうな印象的に撮影できた物語に不要な映画のシーン。

責任者が、監督が確信と共に責任を負って判断しないといけない。さもなくばもったいないから残すという安直な結論になる。なまじ、良いものがすぐ近くにあるとなかなかそれを除くことが難しいと痛感させてくれる。

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似た例と言えるかわからないが、私が長年泊まってみたいと思っているクラシックホテルに富士屋ホテルがある。このエクシブ箱根離宮と同じ箱根宮ノ下の目と鼻の先にある、天皇陛下やジョンレノンが泊まったホテルだ。

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富士屋ホテルwebより拝借。

折上格天井なんて素敵過ぎる。館内も至る所に技巧を凝らした木彫が施されていたりして泊まれる美術工芸館のようなものだ。

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宿泊者だけしか行けないラウンジやプールもレトロで素晴らしいようで一度は堪能してみたい。

 

エクシブ箱根離宮は室料が1泊22500円なので4人で泊まると実質大人6500円、子供4500円のようなもの。そこにホテル外で朝夕食を取ってもせいぜい3000円。大人1人1泊2食で1万円程度は昨今の民宿と変わらない値段だ。

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黄昏時も美しい。連なる全面窓が妖しい景色を見せてくれる。夜は奥の主寝室に子供を早々に懐かせて扉を閉めることで、この広々したリビングを大人だけで満喫できる。旅先で子供達と寝室を分けられるというのはなかなかの贅沢だ。

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本音を言えばエクシブ箱根離宮のわかりやすいピカピカした豪華さは全く私の好みではない。しかし清潔でメンテナンスは行き届いており、これまで露天風呂の眺望は最高だったし、何より87㎡の広さは子供と一緒でも寛げる。

 

なまじエクシブ箱根離宮が安くて快適なせいで隣にある富士屋ホテルに泊まれないという思考の拘束に陥っている。富士屋ホテルは4人泊まれる2ベッドルームで室料15万円。私が本当に泊まりたいヘリテージルーム菊は4名は泊まれず、2名1室で1人75000円、室料15万円。富士屋ホテルに本当に泊まりたければ泊まればいいだけの話なのだが、なまじ同じ箱根宮ノ下にエクシブ箱根離宮があると箱根に泊まる際には常にエクシブ箱根離宮で良いのではないかと思ってしまう。おそらくよほどのお祝い事でなければ富士屋ホテルには泊まらないだろうが、エクシブ箱根離宮があることで一層難しい。

 

夕御飯はエクシブではなくLa Bazzaという富士屋ホテルの横にあるイタリアンレストランで頂いた。元富士屋ホテルのフレンチシェフが営むカジュアルイタリアンとのことだが生ハムサラダからして違いのわかる美味しさ。

ハラミステーキ、カルボナーラなどどれも絶品で家族だけで来る際には毎回夕食はここでも良いのではないかと思う。f:id:mangokyoto:20210515182250j:plain

 

 

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夜には強羅ビールのRISING SUN IPAとやらを初めて飲んだ。一本で飲み応えのある苦味、酸味、旨味。麦芽、ホップだけでなく柚子ピールも入っているのが和風クラフトビールらしさか。アルコール度数は6.5度。

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寝息しか聴こえない薄暗い部屋で独り飲むのも至福の時間。ありがたいことだ。

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今回は露天風呂にケチをつけたけれども、やはり良いな。部屋からは向かいの山までの眺望を楽しめた。