無事に焼けていますようにと祈る気持ちで小窯の窯出し。普段は2人以上立ち会いの元で窯出しするのがルールだが、私の作品しか入っていないので許されている。慎重にブレーカー、主電源が切れていることを確認して窯の扉を開ける。感電すると即死だ。すぐに気づいてくれる人もいないので気をつけないといけない。
どうだろう。上手く焼けたと思っている。白化した団子虫の死骸が黒い岩に載っている鉢。中は空洞になっている。
脚などの繊細な部分は釉薬でしっかりと保護強化し、外殻部分は土肌とヒビを露出させて風化しつつある雰囲気を出している。裏には厚く釉薬を掛けているのでそんなに脆くはないはず。
植込み開口部。植替えがしにくいだろうが、団子虫から冬虫夏草のように盆栽植物が生えてきている姿を優先した。
釉薬を掛けて強度を出しながら外殻周囲の土肌で風化を表現するという合わせ技の試みは成功したと言っても良いのではないか。
こちらは苔を張ってもらうことを想定した土台部分。シリコンカーバイドで発泡させることで苔の仮根が入り込んで活着しやすくすることを意図している。私としてはもっと発泡させるつもりだったのだが配合比率が少し低かったのかもしれない。配合比率2%前後が推奨らしいが混ざる対象の釉薬にも左右されるのだろう。
団子虫の頭方向から。
背中側から。右手崖下の出っ張りには穴が空いている。そこに枯れた根を差し込んで空中に露出させるとさらに崖崩れ跡のようなジオラマ的臨場感が出せるのではないか。左手側の緩やかな稜線には苔を張ってもらうことを想定。水が苔を伝って緩やかに落ちていくように。
苔を張ってもらう尻側。
あくまでも植えてなんぼの植木鉢なので是非植え込んだ姿を見てみたい。本当の評価は植物と一体となってからだ。
黒泥土、金ラスター釉筆塗り後剥離、シリコンカーバイド2%配合金ラスター釉を部分的に筆塗り。
電気窯1230℃酸化焼成。
焼成後重量1200g。
もう一つの注文制作品。こちらは団子虫を黒メタリックに仕上げた。より新鮮な死骸風。
こちらの方が外殻も脚もシャープな輪郭に造られている。私が普段作らないぐらいに下の丸鉢の腰下に厚みを持たせて重心を下げ、鉢が転倒しづらく努めている。
団子虫を少し無機質な風合いにしている分、丸鉢は一号透明釉をかなり厚めに掛けて鬼萩や梅花皮のような凹凸が出てアメーバ的になっている。汁っぽく滴る寸前。こちらの鉢には木より草モノが似合いそうだ。
黒泥土、マンガン窯変釉筆塗り。
赤土4号、1号透明釉ドブ漬け。
電気窯1230℃酸化焼成。
焼成後重量750g。
テストピース無しのぶっつけ本番仕込みなので不安があったが自分の作品として人様に納める水準には達したと思う。手元に置いておきたいと思える作品にはなった。あとは植物が植え込まれて鉢と馴染んだ姿を見てみたい。