作陶注文制作の学び

ブログ上でしか存じ上げない方から初めて注文を受けて制作してみた。所感を備忘の為にまとめておきたい。

  • 恥じない作品を作らねばと思うので趣味で自分の為に作っている作品よりも気合が入る。団子虫なんて特にそうだが、自分の為に作った作品よりも細部まで手を抜かずに丁寧なものが出来上がった。案外、自分は真面目だなと思った。笑
  • 良い意味でのストレスとプレッシャーが集中力を増さしてくれる。
  • 明確なできあがりのイメージを持って作ることになる。作りながら手なりで変えていき何が出来上がるかは自分でも想定しない作り方とは異なる。
  • 依頼者の好みや趣味が盛り込まれた注文を聞くことで新しい学びがある。

例) 真柏という素材の魅力、盆栽の世界。
例) 岩付き盆栽から着想を得た岩風土台と蟲の融合
例) 苔を張る前提で作る

  • 値段を伝える際に「えー高すぎない?そんな価値ないでしょう」と思われないか少し勇気がいる。私の作品は数万円はして当然と言ってくれる人からガラクタ同然だからタダであげればと言う人(妻)まで幅広い。
  • 気に入ってもらえるのかは最後まで不安。
  • 受け取りの際に満足な言葉をくれていても、内心はここはもっとこうだったら良かったのに、とかあの作品と同じような仕上がりを期待していたのにと思っているかもしれないと不安になる。
  • 委縮しても意味がないので、手元に残っても自分でも満足する作品を作れば良いと開き直る。
  • 自分で満足のいく作品が出来上がると引き渡すのが惜しくなる。笑

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面白いことに世界の作陶家コミュニティーでは定期的に「注文制作で後悔した」「二度と注文制作は受け付けない」「そう誓ったのにまた受注した自分を殴りたい」というスレッドが立って大いに盛り上がる。定番ネタらしい。面白かったのでいくつか引用する。

  • 製作途中に仕様を変えてくれと言われる(既に変更できない段階)
  • もうX個注文するからX%割り引いてくれと言われる。(数量値下げが嫌いな作家が多い)
  • 注文品が完成して作品の写真を送ったら連絡が途絶えた。(確かにこれはこたえる)
  • ちょっと思っていたのと違うと言われる。(もう少し具体的に表現してくれたら合わせられたのにと思うと悔しくなる)
  • やり直したものを見せても、期待と違うと言われる。
  • 自分でもマグレと思える予想以上の出来の作品と同等のものを期待されていたことが判明する。(陶芸は特に炎に委ねるので結果を作家が完全にはコントロールできない。製作者にも再現できない時もある)
  • 値切られる。
  • 材料費はこんなもんでしょみたいに言われる。だったら自分で作れと怒る人多数。
  • その注文の為だけに買った試料や原料が無駄になる。
  • 特別注文に合わせたことでその人以外は欲しくない作品となってしまい、引き取られなかった場合に売れずに時間と材料費の無駄に終わる。
  • こんなことなら既に作ったものの現物を見てもらってノークレームで買ってもらうほうが遥かにマシ。(確かにお互いに期待のずれは起きない)
  • 注文の色や形を実現するために失敗した場合の予備を作らないといけない
  • それらに懲りて注文制作を二度としないと誓ったのに、作って欲しいと言われると嬉しくなってまた受けてしまう。無限ループ。

 どんなお客さんを相手にしているんだよとつっこみたくなるが、弟の奥さんに頼まれたとか、父親に頼まれたとか関係の近い人の注文でもしこりの残る結果になった例は多いらしい。

 

いろんな議論の末の総合的な知恵として導き出されていたのが

  • 契約書を交わす。(欧米ならでは)
  • 自分が健康上の理由で(死亡含む)完成品を納入できなくても返金はしない旨を契約に盛り込む。これは遺族に迷惑を掛けない為。(欧米ならでは)
  • 受注時に前金で50%もらう。
  • 特別注文の内容にスタイルからはずれたもの、まったく新しい形や釉薬を含めない。
  • 注文主が気に入らなかった場合は返金する代わりに自分で他の客に売る。条件として自分の名前で売れる世界観や技法の範疇内のカスタマイズ注文内容に限定する。
  •  土や色の組み合わせで既に焼き上がりに問題がないことがわかっている注文だけを受ける。例)同じ土を使ってこの形にあの作品の釉の組合せで焼いて欲しいなど。土と釉の組み合わせが変わると結果が全く違うことになることを陶芸をしないお客さんは理解できない。
  • 定番の作品が品切れの場合、在庫を特定のお客さんの為だけに作る。
  • 失敗した場合のスペア作品を自分で売れるようにする。

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 私は良い意味で気合が入って真剣に作れたし、自分にとっても新しい学びがある注文内容であったし、ストレッチされたので今回の制作は楽しかった。どんなに遅くとも来年の春ぐらいまでにというとても緩い納期で作らせてもらったので失敗を見越したスペアを複数作る必要がなかったし納期を気にせずに済んだ。寛大な注文主さんにも恵まれたことも大きいのだろう。

 

自分ルールの学び

  • 注文内容が自分が作りたいモノであること
  • 納期をとても緩くする
  • 引き取り拒否でも自分の手元に置いて満足のいく作品を作る。着手金も受け取らないし、作品を気に入らなければ買う必要がない旨を伝える。
  • 収入源と当て込まない。
  • 良いストレスの範疇に収める。時折、注文制作を受けるのはとても良い刺激。

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