手塚商店にて田中ふみえさん作品に出会う

作品を展示する空間自体を最大限に魅力的にして作品の魅力も引き出す。主人が作家の経歴や作品の狙いを語ってくれるのも大きい。販売店としての役割の大きさも見せてくれる手塚商店。もちろん、作品に強さがあってのことだけれども。

 

大正時代に建てられたという立派な木造建築のギャラリー。パリ万博で有田が名を馳せ陶磁器の輸出貿易が花開いた頃に輸出商として儲かっていた先先代が建てたそうな。

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立派な大店の手塚商会。痺れる店の外観。
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お向かいの明治時代に建った民家。
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こちらはさらに古く江戸時代。

うちが3軒の中で一番新しいんですよ、と謙遜するご主人はどこか誇らしげ。京都か、ここは。
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もう70歳近いご主人が生まれ育ったご実家だそうだが建物そのものが美術品のような佇まい。掃き清められ隙がない。そのまま観光ガイドの写真になりそうな憧れる日本家屋。
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そんな座敷に近いタタキの一画に田中ふみえさんの作品が所狭しと並べられていた。ギャラリー主である手塚さんが目利きした磁器作家「田中ふみえ」への入れ込みようが判る。

空間に酔って作品も一層魅力的に見えてしまう気がする。
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酒盃や蓋付き碗
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古くからある図案に新しい色遣いをしたり、古くからある図案を新しい組み合わせ方をするのが彼女の作品の魅力だそうだ。左の椿も個性的な色の組み合わせ。
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青い染付けの菊の雄蕊には黄色が差してある。補色だからか、そもそも青い菊も雄蕊は黄色だからか、染付けの青一辺倒よりも引き立つ。そしてリムにプラチナが塗られ豪華さも加わる。

 

元々は東京で商社勤めをされていて、有田がご実家だったこともあって専業作家としてやっていける目処が立ちそうな頃に独立して有田に転居されたそうな。生粋の若い頃から専業作家として修行してやってこられた方ではない。元々は本業を別に持つ転身組みとして私にとっての目指す姿を見出している。

私も生産量は多くはできないかもしれないが陶蟲夏草鉢作家として思う存分、自分の作品を作れるようになりたい。
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呉須の染付けにプラチナを載せるのが彼女のスタイル。縁のプラチナの垂れ紋様が好み。絵柄は全て手描き。
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小皿の絵付けも図案のレパートリーの多さに驚く。描いていた楽しくて仕方がないのだろうな。

田中ふみえさんにはファンも多く、つい先日に数年待ちしていたお客さんにようやく注文商品を納められたと言ってその作品を見せて下さった。特注の図案ではなく過去の既存の図案で指定数量の皿を作ってもらう形の特注だそうだ。やはり特別注文は特定顧客に対する既存図案の再生産が期待値のずれがなくて安心なのだ。

とはいえ、器を持つ左手に腱鞘炎を患ってしまいしばらく制作できなかった時期があったのだとか。
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唐津や白華窯を歩いている際には、「たぶん有田では何も買わない気がするんですよね。綺麗すぎる絵付け磁器よりもムラや揺らぎの多い陶器の方が好みなんですよ」などと地元の話し相手に私は抜かしていた。総論としての好みはそうなのかもしれないが、これだけの手描きの一筆入魂の作品の数々を目の当たりにすると磁器だからと否定する気も起きない。ブレやムラのある精緻に整い過ぎない点に絵付け磁器でも魅力を感じるのだろう。転写はつまらん。
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右の錆びたようなプラチナ釉の釉垂れ紋様と雀と花木のモチーフのマグカップにも惹かれたが全体として雰囲気が甘く可憐すぎる気がした。悩んだ末に左のスッキリとしたシルエットの酒盃を買ってしまった。外側には瑞雲と雨の線紋、内側には雷紋が組み合わされている。雷があるならば雲と雨もあるだろうという当たり前に聞こえるがこれまで合わされることのなかった図案同士の同居。値段は秘密。良いことがあった日にニヤニヤしながら好みの日本酒を飲むための好みの酒盃。そんなものをいくつか持っても良い年頃ではないかと自己正当化した。
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ご主人からは会計をしている間、オススメのちゃんぽん屋だとか、地酒の銘柄なんかも教えて頂いた。

とても立派な江戸時代から引き継ぐ仏壇があって、裏には何代目が修繕をしたという記録が墨書きされているのだそうだ。間隔からすると自分の代で修繕しなければならないのだけれどもスキップできないものか、と仰っていた。