深川製磁への愛が届かない。懐が。

そういえば、陶器に嵌る前に深川製磁に少しばかり嵌っていたことを思い出した。

 

海外駐在をするにあたって来客をもてなすには和柄の皿があったほうが良いよな、とネットで調べて華があって好みに感じられたのが深川製磁だった。そんなわけで我が家には愛用している深川製磁がそれなりにある。殆どは寿赤絵シリーズで少しばかりブルーチャイナの徳利と酒盃もある。

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郊外のチャイナオンザパークという深川製磁テーマパークのようなところを訪れ、午後には上有田にある深川製磁本店を梯子して訪れた。奥には工場もある。
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本店建物には風格がある。京都の開化堂の建物を思い出した。
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富士山のステンドグラスも素敵。
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販売棟の奥にある敢えて塗り直していない木造の工場入り口の建物群。現役で使い続けられるほど細やかに構造躯体や内部が修繕されているのだろう。
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深川製磁のロゴが掲げられている。
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宮内庁御用達 深川製磁株式会社とある。有田は販売される器だけでなく売られている建物も芸術品でまわっていて楽しい。

 

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深川製磁は凄いなと再認識させられた染錦つる朝顔シリーズ。朝顔日本画的表現、染付けのたらし込み技法のような濃淡グラデーション。控えめに縁に金の乗る豪華さ。そこら辺が私が惹かれる要素だと思う。100年以上前からある定番絵柄だ。
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紅茶カップとソーサーのセットで定価77,000円だそうだ。いやあ、良いと思うけれども懐事情が全く持って合わない。年収がどれぐらいになれば買える気になれるのだろうか。

 

深川製磁では伝統技能士を7人抱えているという。9人いたが2人が高齢化により引退してしまったとのこと。このクラスの高級シリーズになるとこのシリーズは誰と担当が決まっているそうだ。技能士の手描きの品は価格がひと回り高価になる。

 

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鯛の開きなんていう皿型もあるのだね。
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図案が和なのが好み。何を盛り付けたら良いのか全く思いつかない。
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菊七宝。わかりやすく高級、上品のイメージ通りの品だけれども深川製磁基準では求めやすい価格なのだろう。私が持つようなものではないけれども見るのは好きだ。
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深川製磁の技術の高さよ。完璧すぎてつまらなく感じるほど。
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壺が1万円前後だった。小さなゴブレットよりも安い。手捻り成形だとこんなサイズの壺はそれなりな値段になるけれども、鋳込みによる均一な形で絵付けもシンプルだと深川製磁においては値付けはむしろ低くなるようだ。見た目に対するコスパは高いとも言える。
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深川敏子メモリアルシリーズ。深川敏子は大正、明治期を生きた女性で深川製磁創業社長の長男に嫁いだ。女学生時代に大恋愛の末に妊娠して結婚。閉鎖的な価値観に染まる佐賀にあって地元の名門にそのような形で嫁いできたハイカラで自由奔放な女性。新しい芸術性や家風を吹き込む上で当時の深川製磁創業社長は歓迎して愛したのだそうだ。しかし4人の子供を授かるも肺炎で30歳の若さで夭逝。

常識に囚われず自分のスタイルを貫いた深川敏子に勇気づけられる人も多いのではないか。そんな物語を持ったメモリアルカップ
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光琳風の絵皿。金の代わりに鈍い錆び銀彩ならば買ってしまったかも。と思ったがお値段7,700円。アウトレット品は2割安くなっているが傷やピンホールがあるわけではなく、深川製磁基準に対して呉須の発色が濃過ぎたり薄過ぎたりするものなのだそうだ。どう発色すべきかの基準がわからないと良品にしか見えない。
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竹と菖蒲の簡易化度合いが好み。
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盃もあった。中サイズで11,000円。どれも手が届かない。
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取手の太いマグカップ。重たそうだが取手が中空になっていて軽い。しかも空気穴が空いていない摩訶不思議。膨張爆発をどうやって防いでいるのだろう。

熱い飲み物を入れて細い取手で飲むのがしんどい高齢者の声に応えているそうで確かに握りやすく安心感がある。人によっては味噌汁を入れたりするのだとか。なるほど。デザインはそこまで好みでは無いけれども実用性が深く考えられた一品。深川製磁愛好者が高齢になって辿り着く品かもしれない。

 

私の好みと愛情は陶器に移ってしまったけれども深川製磁はやはり良いと思う。あ、これも良いなと思って器の底にある値札を見るたびに「お前が買えるものではない」とビンタされた思いがする。

 

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ちなみにこれが私が長らく愛用している深川製磁のボンボニエールなのだが、上下全面が瑠璃ではなく青と蒼の中間のようなとても綺麗な呉須による深川ブルーになっており銀かプラチナで十字に桜の蕾、花、葉が描かれている。
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これと同じシリーズの酒盃や皿があれば購入したいと思って深川製磁本店とチャイナオンザパークで探してみたのだが類似品は見当たらなかった。
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そもそも全面が深川ブルーで覆い尽くされた意匠が殆どない。大きく線描された桜の絵付けはあれど、こんなに小さく紋様化して描かれた桜も既存製品ラインでは見かけない。裏を見ると確かに深川の富士に流水ロゴが入っているのだよな。

深川製磁本店の年輩女性が過去のカタログをめくり、工場長にも聞いてもらったがわからないとのこと。

 

後日、写真を撮って送らせて頂いたら返事が来た。昭和49年、1974年のカタログに載っていることが確認できる「平安花鳥」というシリーズのもので現在は絶版、在庫も無しとのこと。48年も前のものだとは思わなかった。全く古びない品質の高さに驚かされる。大事にしよう。