鹿猟に想うこと

 

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それはそれは美しい5月中旬の牡鹿半島で鹿狩りに同行させてもらったのだった。


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プロットハウンドという猟犬。和犬の猟犬よりも数倍の距離を走り回り、野太い声で吠える。家で飼うには声が大きすぎるが狩に出るとよく響く吠え声の有り難みを後で知ることになった。

多くの猟師は敢えて猟犬に社交性を身につけさせず猟欲が盛んになるように育てる。迂闊に手を出すと咬まれるが、この子はしっかりと躾けられていて人懐こかった。
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受け持った狩場。間伐がされており林床に陽が射してはいるものの紅葉樹が入り込んだ混交林に育つには至っていない。美しい豊かな里山の林に変わるポテンシャルは秘めているように思う。
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林地残材も朽ちるに任されている。こういったものが木質バイオマスとして活用されると理想的なのだが。

虫除けスプレーを足元にもしっかりと撒く。必需品だそうでこれをしないといつの間にか足元をヒルが這い上がってきて気が散って狩にならないという。
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私には見当がつかないが、猟師さん曰くライフル本体はある意味、消耗品でそこそこのもので十分だという。但しスコープは質と精度が成功率を左右するので上等なものを使っているとのこと。銃は法律で絶対に他人に触らせてはいけないとのこと。銃身を裸剥き出しで持ち歩くことも禁じられている。
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遠くから段々と猟犬の吠え声が近づき、鹿の気配がする。飛び立つ鳥の羽音が不穏な空気を伝える。息を呑んで目を凝らす。

 

70mほど先で牝鹿の体が杉の幹と幹の間を動く姿を見たと思った瞬間にはライフルの轟音が鳴り響いた。仕留めたと思ったが猟師さんは「よっしゃ仕留めた」だとか言うわけでもなく淡々とライフルを構え直してまた気配を消す。私も邪魔になることを恐れて唾を飲み込むことすら避けるように気配を消そうと試みる。半眼で座禅しているように。

 

幾度か小鹿が目の前を駆けていった。猟師さんは照準を合わせたが引き金は引かなかった。あんな小鹿を撃つべきではないと言う。有害鳥獣駆除だと子鹿だろうと6歳の古鹿だろうと報酬は1頭あたりなので小鹿も狩猟する人もいる。

 

ちなみにライフルだと杉の幹ぐらい容易く撃ち抜くそうだ。

 

鹿の気配が去った。先ほどの銃声は確かに仕留めていたようで山腹に仕留めた鹿を回収しに行った。60kgほどだろうか。一斉にダニが這い出してきている。胸、心臓の位置に一発の着弾。頭や首と同様、即死させられる急所だそうだ。さりげないが同行させてもらった猟師さんは尊敬を集める凄腕の猟師さんでテレビ局が密着取材してドキュメンタリーを制作したことを思い出した。

その場で手際よく解体して内臓を取り出す。血を抜き、心臓とレバーに切り込みを入れて山の神に捧げる。3歳と思われる牝鹿で胎児が入っていた。あと1週間といったところ。言葉が出ない。


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罠猟と銃による狩猟に優劣や倫理的是非はあるのだろうか。

 

銃で頭や心臓などの急所を撃ち抜けば鹿の苦痛は短い。仕留め損なえば傷ついた身体で長く彷徨い苦しむ。

 

罠猟は罠にかかってから人間が確認してトドメを刺すまでの時間、脚に食い込んだ罠の痛みと恐怖と不安に苦しむ。脚がちぎれて逃げても長く彷徨い苦しむ。

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他の持ち場を担当していた経験の浅い猟師さんが仕留め損ねてしまったという。私達も加わって30分近く血痕を辿って山の斜面、草原、湿地を追った。鹿が逃げ込んだ先は山の中にぽっかりと開けた湿原だった。
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周囲の森の端には山藤が咲き誇り幽玄な空間。死を覚悟したからここを目指したのか、単に湿原ならば足跡も消えて歩きにくく尾行を捲きやすいからという合理的理由だろうか。結局、傷を負った鹿は見つけられなかった。銃傷を負った鹿はどこかで力尽きてしまうだろうとのこと。猟師さんは仕留め損った経験の浅い猟師に少し苛立っているようにも感じた。未熟な技量は無用に苦しませる。
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20年は風化したと思われる半分は土に埋まりかけていた大きな牡鹿の角を見つけた。長いこと土中にあって骨は脆くなっていたので持ち帰らなかったが改めて見るとこの朽ち方の美しさよ。労を惜しまずにこのまま自宅まで持ち帰るべきではなかったかと後悔している。
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金華鯖で有名な金華山が見える。高野山同様に女人禁制の霊場だったそうだ。バブルの頃に開発され、ホテルができ、潰れて廃墟と化し、平日は船の往来も皆無となりまた人の少ない聖地へと戻りつつある。

 

18時半過ぎに日が暮れた。日没でもって狩猟は終了となる。猟師さんに案内してもらった牧草地では鹿が50頭以上の群れを成して駆けていた。日没以降は人間は撃たないことを知っているのだろうか。
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「緑の砂漠」と言われ間伐されず植生が貧弱な植林。

猟師が高齢化で減り有害鳥獣駆除要請に対応しきれない現実。困る農家。

撃つだけ撃って獲物を山から下ろすことも解体することもしない、できない高齢の猟師。

鹿撃ちが娯楽と化しているケースもある。

閉鎖的で諍いの多い猟友会同士の関係。

所有地でもないのに縄張りを既得権益として主張する古参、地域の文化慣習を尊重せず法と理屈を振りかざす新参。

人不足に困りながらも新参者に不親切で厳しい組織文化。

「昔からこうやっていた」で済ませる年輩者との意識のギャップ。

若い女性猟師へのセクハラ発言意識の低さ。

猟犬は消耗品なのか。人間と楽しく暮らせるよう社会性を与えるべきなのか。

いろんな問題がある。私の中に答えはまだないし浅薄なことは言いたくない。
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猟師さんに有り難くも頂いてしまったのがこの牡鹿半島の牡鹿の頭骨。上顎の歯も全て揃った完璧な骨。ヨーロッパ豆鹿とはサイズが大きく異なる。
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モヤモヤが心の中に蓄積して、代わりに創作意欲が湧いた。

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