自分の陶器作品の採算性を考察して作陶を家計の足しにする可能性を探ってみようかと思う。
値付け
販売価格をどうするかというのはとても悩ましい問題。試しに世界各国の陶器を制作して販売しているFacebookコミュニティーに投稿して聞いてみた。
- Functional ware(機能製品。皿やマグカップなど)とArt (アート)で値付け方法を分けている人が殆ど。
- 私の作品はどちらかというとFunctional wareよりもArtではないかとのこと。(植木鉢としての機能性に乏しく見えるからかもしれない)
- 方法1.Artなら複数のギャラリーに持っていって売値を幾らぐらい付けるか聞いてみる。自販の場合にはその値段から30-40%のギャラリー手数料を引く。
- 方法2.Functional wareの場合と違いArtの場合は自分の時給を設定し必要とした作業時間数+原材料費+諸経費を積算して算出する。
- 方法1と2の値段を比べてさほど差がないのが理想的。積算した価格が高い場合はお客さんの望む値段を実現するには作業効率や費用が嵩んでしまっている可能性がある。
- Functional wareならば相場との比較が重要。近隣のアートクラフトフェアなどで類似の作家の皿やマグカップがいくらぐらいで売られているかをチェックする。
- 筒鉢の上に蟲を乗せた陶蟲夏草鉢を見せて意見を募ったところアメリカなら卸値として100USD以上の値段は付けるべきとの意見を複数頂いた。ただし国やマーケットの相場は異なることも多いのでギャラリーに持ちこむのが良いとのこと。
では仮に100USD=12000円として30%のギャラリー手数料を乗せるとなると15,600円となる。正直言って出品歴や受賞歴などのハクがないと無名作家には難しい値段ではなかろうか。昆虫アートクラフト展ぐらい客の嗜好が偏った売り場でないと厳しいかもしれない。
私は欲しいものが売ってないから自分で欲しいものを作っている。無ければ自分で作ればよいし作れると思っているスタンスの私が適切な基準だとは思わないが5000円ぐらいで売られていたら自分で作れるとわかっていても手間や時間を思うと面倒だから買うかもしれない。陶芸をしない人で私の作品を気に入って買ってくれる人がいるとしても7500~10,000円程度で売れるのが売り手としても望ましいような気がする。
制作費用
では1個10,000円で収入源として成り立つのか。
成形 蟲2hr
成形 台座鉢 轆轤0.5hr、削り0.5hr
釉薬掛け 0.5hr
窯入れ、窯出し、素焼き鑢掛け、底研磨、準備や清掃などに計1.5hr
作業時間合計 5hr (乾燥時間、窯待ち時間は含めない)
材料費 土代 500g 150円
素焼き焼成費 500g 400円
酸化焼成費 500g 500円
材料費合計 1,050円
工房設備使用料 月11000円、6hr X 4日=24hrとして450円/hr、5hrで2,250円
総原価 3,300円。
釉薬代や道具の購入費は含まず。
10,000円のうち残り6700円を5時間の作業時間で割ると時給1340円となり歩留まり100%でもファミレスやコンビニのバイト代より少し高いぐらいしか稼げない。実際は5つに1つは乾燥や焼成時に失敗するものが出てくる。梱包したり発送したりする労務費や資材費を含めたらさらに取り分は減る。デザインを考えたり、モチーフの資料を調べたり、新しい釉薬を試したりという「商品開発」の時間を配賦する余地はない。
同じものをパーツごとに量産して同じものを一度に20個、30個作っていけばそれなりの効率増は期待できる。作業ごとの準備や清掃に時間を取られるのでそれを減らすことで5hrを4hrあるいは3hrに縮めることは可能だと思う。
1個あたり6000円の人件費を賦課できると想定しても月給30万円を稼ぐには月販50個。1個当たり4hrの労務が必要だとして月間200hr、週休2日ならば毎日10時間労働が必要だ。売れる確率の高い「ウレセン」の定番作品を作ってそれを機械のように延々と家内手工業生産して、そんな働き詰めでも月給30万円。陶芸が嫌いになりそう。
採算性向上に大きな要素
大:制作必要時間数の削減
中:生産数を増やすことによる工房使用料の希釈
小:軽量化による焼成費の削減
- より素敵な造形を短時間で作れるよう腕を磨く。
- マグカップや皿など幾何学的形状のシンプルな形にする。総作業時間1-2hrが目安。
- もしくは石膏型でパーツどりできるような簡素化を図る
- 形よりも釉薬の調合で差別化を図る。
- 同じものを一遍に30個、50個作る。
- それでいて単価5000円以上を目指す
ああ、こうなると苦行にしかならない。特に同じものを一遍に大量に作るという点がしんどい。心が死にそう。稼げるような作陶は私がしたい陶芸にはならない。効率が良さそうな皿やマグカップや箸置きを作る気にはなれない。
益子の天才陶芸家、加守田章二さんのように半農半陶で食い扶持を農業で確保しつつ思うままの作りたい作品が世間に受け入れられて個展はほぼ完売、取り扱い店は常に入荷待ちというのが理想形か。あれこれ希望を付けて注文しても全く注文を無視したような違う作品を作ってくるがそれでもみんな文句言わないという究極のポジショニング。
私も稼ぐことは考えずに自由気ままに作りたいモノを作る週末陶芸家でいるのが良さそうだ。あるいは月収15万円を年金の足しにする老後陶芸ならばさらに技量を磨いて効率性を上げた先にたどり着けそうな気がわずかだけする。
あれ、これって私の通う工房の作陶の大先輩たちそのままではないか。