2時間山歩きして辿り着く秘湯「三斗小屋温泉」へ

自分の中の温泉十選の三指に入る温泉旅館に出逢えた。ここは是非息子達と再訪したい。

  • 理想的な檜風呂。全二面がガラス窓の開放的な浴室。
  • 無加水、無加温、掛け流しでありながら、丁度良い熱さの温泉。
  • 理想的な昔ながらの木造客室。
  • 2時間登山しないと辿り着けないご褒美感
  • 布団に入りながら客室の障子を開けると山と空と繋がる開放感。ひんやり気持ちの良い空気。
  • 山奥にありながら朝夕に食事が出るしお酒もある。豆から挽いた珈琲も飲める。
  • 写真を撮っていて飽きない風格ある建物。
  • 気持ちの良い接客と活気

大袈裟かもしれないけれども人生で知っておきたい温泉宿だと思った。

 

無論、不都合な点もある。しかし不都合な点の多くは魅力と表裏一体に思えた。

  • 電波が届かない。
  • 電源がない。充電はできない。
  • 2時間の山道を歩かないと辿り着けない。
  • 隣室との壁は薄い。
  • 9時消灯。食事は17:30と6:30部屋食。
  • 風呂トイレは共同。

苦手な人もいるのだろうが、私には気にならない。

 

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文化財級の建物が素晴らしい。興奮して隈なく探索した。11月から3月までの冬の間は閉鎖される過酷な山奥で無人で風雪に晒されても耐える頑健な作り。

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この山奥でこれだけ綺麗に維持できているのはすごい。
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なかなか格式の高い造りをしている。けして山小屋や木賃宿という類ではなく旅館。
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木造の立体的な構造になぜかワクワクする。
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軒と庇が深く差し込む光の柔らかさがたまらない。谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を引っ張り出して読み返したくなるが電波は入らない。

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全ての部屋が開口部が広く、畳に座った視線の高さから外を眺められる造り。
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風呂は岩風呂と大風呂があり、それぞれ源泉が異なる。加水も加温もしてない掛け流し湯なのだが岩風呂はかなり温い。37℃ぐらいだろうか。1時間ごとに男女が入れ替わるのだが、みな1回岩風呂に入ると大風呂の時間を待つようになる。

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それにしてもこの山奥でこの手入れの行き届いた風呂の素晴らしさよ。木造の二面全面ガラス戸。風が気持ち良く吹き抜けていく。遠方の山も眺められ、木々の緑も楽しめる。

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全くもって理想的な浴室だ。大風呂は湯温も高く、温度の異なる二槽があるのでいくらでも長湯できてしまう。
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清々しいったらありゃしない。

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溜息の出る美しさ。
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湯屋に高さがあるので藪の中ではなく木々の中、森林浴のような気持ちよさがある。

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外から見ると浴室の外の環境がよくわかる。よくぞこんな立地に作ってくれたものだ。
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柔らかな陽が差し込み、山の上のひんやりとした冷気が湯気を立ち昇らせる。

 

紅葉の季節など繁忙期に客を通すという別館も歩き回った。

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まだ新しく木が白木の色をしている。陽が差し込み、しっかりと日干しされた清潔な寝具。なんだかもう理想的な快適な木造建築だ。
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眺めてうっとりとする柔らかな陽射しによる陰影。
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開けた庭には木製の大きなテーブルが二つあり、湯上がりにビールを飲んで涼むのに最高だった。アキアカネが飛び回り、蝗が跳ねる。雲は少なく空に高い。こんな解放感は久しぶりだ。

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障子を開けると山と青い空に繋がる。ひんやりとした空気を顔に感じながらも、身体は羽毛布団の温もりにうずめられたまま木々の緑と流れる雲をぼんやりと眺めていられる。

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湿った煎餅布団ではなくふかふかの羽毛布団。
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見上げれば空。

 

障子を開けた方向には空間が開けており、網戸など無いのに不思議と蟲も蚊も入ってこない。

 

こんな山奥で、朝夕二食を頂ける。夕食は17:30、朝食は6:30。丁寧に御膳に載せて部屋まで届けてくれる。目の前に御膳を据えて、全開放して山を眺めながら御飯を頂く。鮭のフライ、クリームシチュー、お浸し、味噌汁、お櫃に白米2杯分。何が嬉しいって日本酒、ビール、豆から挽いた珈琲と何でも飲物も揃っていること。

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接客だって丁寧で心地よい。さらに20代の若い男女が手伝っていて活気がある。人まで気持ちが良い。

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燃料はドラム缶で年に1回、ヘリコプターで荷上げし、米などの日持ちするものはその際にまとめて飛ばすそうだ。秋になって足りなくなった食材や調味料、そして日持ちしない食材は「歩荷」と呼ばれる人が背負子に食材を積んで人力で荷上げしてくれるのだそうだ。一回に40kgから強者になると80kg近くを背負い、1.5時間の道程を登って来るのだそうだ。私がたまたま会った「歩荷」さんは元陸上選手でコロナ禍で海外青年協力隊に行くことができないのでこちらの旅館で働いているという人。他にも「歩荷」を専門にしている人がいるらしい。報酬はkgあたりの重量制で手前の山荘だといくら、さらに山奥の山荘だといくらと距離に応じて値段も変わるそうだ。

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上半身裸で汗だくだく。「見苦しくてすみません」と爽やかな破顔で挨拶してくれた。

 

これがヤマト運輸や佐川急便などが如何にコストを下げるか苦労している流通で話題の「ラストワンマイル」というやつの最難関なケースか。三斗小屋温泉Amazonは届くのだろうか。どこまでがカバー範囲なのだろうか。

 

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陽が暮れるとまた違う魅力的な表情を見せる。「ランプの宿」としても知られる。
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真暗闇の中で活気を感じる灯火。

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夜風呂も素敵。何から何まで素敵。
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部屋に戻っても天国。風呂で過ごしても天国。21時に電気も消えて寝るしか無くなる。皆、山を越えて来て疲れているのですぐ寝入る。

 

翌日は隣り合う三斗小屋温泉煙草屋の露天風呂に日帰り入浴利用をした。1000円也。

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こちらも素晴らしい。小高い一画に山を一望できる絶景露天風呂。湯も熱すぎずぬるすぎず申し分ない。

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雄大な山塊。
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水のペットボトルとKindleを持ち込んで独占している大きな湯船で湯に浸かったり、本を読んだり。結局1時間半長湯して一冊読みきってしまった。

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湯船の横に脱衣所があって、荷物を目の届く範囲に置けるのもありがたい。案外、貴重品を目の届かない場所に置かないといけないと不安が残るのだが、ここだと安心できる。

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今回で2冊の本を読み切ってしまった。電波が入らず、WiFiも無い。テレビもない。非常時に使える衛星電話と公衆電話のみ。SNSのプッシュ通知も来ないので、とても集中して本が読めることに気づいた。

 

企業では普段の仕事から離れてどこかの研修所やホテルで合宿をしたりする。中長期の事業戦略や組織の話をしたり、そんなイベントをオフサイトと呼んだりするが三斗小屋温泉は「一人オフサイト」にうってつけだ。一人、外部からの情報を遮断して本を読んだり自分の人生や今後の計画を練ったり。

 

Kindleは旅に最適なお供だった。何冊ダウンロードしても280g程度で荷物が重くならない。しかも数日充電しなくとも電池が持つ。そして防水。メモまで取れて一瞬で後から検索できる。コンセントの無い秘境の屋外絶景温泉で読書をすることを想定して作られたかのようなアナログ感覚のデジタルデバイスだ。良い買物をした。