Terre Ceramica e Arteのジュルジオさんと作品交換

トリノ王宮の近くのギャラリーの窓際に観光客向けの量産土産ではなく作家ものの陶器作品を置いている店があった。中に入ろうと思ったが鍵がかかっている。

御用の方は鳴らしてくださいとあるので勇気を出してドアベルを鳴らしてみる。

 

女性が案内をしてくれたのだが、彼女自身が作家で食器を作っているのだという。

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エレナの旦那さんも陶芸作家で動物モチーフのオブジェを作っているのだそうだ。私も作品を作っているのだと説明して作品を少し見せると旦那さんを呼んでくれた。
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旦那さんはジョルジオ。巨大な海亀の上にイタリアの中世の城塞都市が乗っかっている。焼締の土肌を見せつつもポイントに釉薬を掛けていてとても私好みの作風。ほかにもオランウータン、ゴリラ、象など。デフォルメしすぎず粗い作りの中に写実性の芯がある。

 

私の作品は冬虫夏草という蟲に生えるキノコをモチーフにしていること、ガラスの上に被せて使うこと、電気窯で1230℃で焼いていること、金継ぎで折れた箇所を修復していることなんかをイタリア人ばりの身振り手振りを交えて説明した。

 

唐突にHow manyと聞いてくる。I want to buyと。How muchと聞きたいのだろう。日本ではこの値段で売っていると値段をユーロ換算で示すと。奥さんとごにょごにょ話していた。値段ほどでもないと思われたかな、と思ったが少しして現金を持ってきた。本当に買うのかと聞くと、買いたいという。
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私としてはお金は思い出にならないから、あなたの作品で小さい交換できる作品はないかと聞いた。小さい作品はないという。この作品でどうだと提案してきたのが獅子の作品。背中に家がいくつか乗っている。

正直にいって私の作品よりも高い値段で売っていると思う。トリノ王宮の近くに工房を構え、専業で作陶を教え、作品を売って生計を立てているのだから紛うことなき本職陶芸家だ。

あちらが良いなら私としては万々歳だ。ジョルジオにとっても珍しい作風だったのかもしれない。蟲など作る人はあまりいないのだろうし、冬虫夏草の実物写真を見せたら興味深そうだった。金継ぎも「オー、キンツギ」という反応だったので知ってはいるがあまり周囲では見ないのかもしれない。

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授業中にお邪魔してしまったようだ。生徒さんは最近の展示会でこの蓋付きの蛸壺でグランプリを取ったのだという。
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陶芸工房を見つけること、作家さんが在房であること、作風が私の好みであること、相手も私の作品を気に入ってくれること、お互いの値付けに納得ができること。これらが一致するのはなかなかのセレンディピティ。とても楽しい。