長城の頂上へ


列車で北北京駅から1時間ほどかけて八達嶺の万里の長城へ。なんと運賃は6元(72円)。一等席がなくなり、前売り券もいつからか廃止されていたので座席が保障されないが破格の安さだ。ツアーを利用せずに気儘に旅したい者には有難い。



険しい峻練な山々が連なるというのにさらにその嶺に万里の長城を築いた歴代の皇帝達。それほどに匈奴を恐れていたということか。延べ数百万人の農民が強制的に動員されて築かれたという。ただ登るだけでしんどい急斜を建築資材を担いで登ることを想像すると気が滅入る。本当にその時代の中国に庶民として生まれなくてよかった。少なくとも2700kmに亘って築かれたというのに軍事的に効果を発揮することは殆どなく、結局は何度も匈奴や蒙古の騎馬兵に蹂躙された。実利のないヒステリックな建造物とも言える。


万里の長城からは偉大さよりも絶対的な権力を握るとどんな無茶も犠牲も可能になるという愚かさを感じる。庶民の命が塵芥ほどの価値しかない時代だから築けた代物なのだね。その一方で、自分の命も万里の長城を築く際に消えた幾万の雑多な命と変わりはないことを突き付けてくるようにも感じる。自分の命がなんら特別だと思うなよ、と。



八達嶺には女坂と呼ばれる緩やかな北八楼へ延びる長城と男坂と呼ばれる坂の険しい南四楼の二方向に登れる。南方向は普通の箇所でもこのぐらい斜度があるが、女坂が伸びやかに這う様を遠方から眺められる上、急斜面が絶景を与えてくれる。人数もまばらで様々に思いを馳せられるゆとりがある。



毛沢東が「不到長城非好漢」という言葉を残したそうだ。「長城に行かずしていい男になれようか」という意味だそうだ。そんなわけで、一人っ子政策下で玉のように大切に育てられる小皇帝も若くして長城には登らされるようだ。マンゴーを連れてきたら喜んだだろうに。長城はペット禁止だろうか。登っている犬は皆無だった。



いい男になりそう。


えっ女?失礼しました。



只管歩いて行くと、大抵の観光客は疲れて引き返すので人は徐々にまばらになっていく。そんなところまで行って、どっかと座って1時間ほど座っていた。「悠久」とはこういう感覚か、と景色を眺めながら思う。



延々と続く道程を手に手を取り夫婦仲良く歩む。示唆的で心温まる。おやじ、いい男っぷりですぞ。