2024年読書備忘録 第一四半期 Audible様様

昨年から読書量が回復している。実は全てAmazon Audibleのおかげだったりする。ジョギングをしながら、料理をしながら、通勤しながら、風呂に入りながら。ながら聴きすることで作品に触れられる時間が一気に増えた。ジョギングの苦痛も減ったし、甘夏の薄皮を剥くような単純反復作業も厭わなくなった。面倒なことをする時間が作品を楽しみながら作業を進められる時間に変わった。文明の利器万歳。

デメリットもある。内容が詰まらないと気が散って聴くのをやめてしまうこともある。感情を入れ込みすぎた過剰なナレーションだとうんざりして紙の本を買いなおすこともある。字面が意味を持つ作品には向かない。よって図やチャートを見る必要のあるビジネス書にも向かない。しかしこれらデメリットを上回るメリットを感じる。

 

1-3月に聴いた作品の中では時代小説に好みの作品が多かった。段々、涙することなど無くなってくるが「まいまいつぶろ」「木挽町の仇討ち」「極楽征夷大将軍」には感情が揺り動かされた。猛毒はなんといっても「ペテロの葬列」で先のシリーズ2作から連続して一気に読むことで読後の心理ダメージが倍加する。

 

まいまいつぶろ ⭐︎⭐︎⭐︎

名作。生まれながらにして脳性麻痺を患い頻繁に失禁していたため「まいまいつぶろ=かたつむり」のようだ、小便公方だと嘲られていた徳川家重言語障害があったため言葉が発せず、唯一大岡忠光だけが理解できたとされる。廃嫡と見做されていたが子を授かりその家治が利発な子であったため、将来の家督争いの禍根を絶つために苦渋の選択で徳川吉宗が「長子が家督を継ぐ」慣習を維持するために家重を次期将軍に選んだとされる。酒に溺れた虚弱で暗愚な将軍だったともされる。しかし実際には大岡忠光田沼意次のような優秀な幕臣を見出し、郡上一揆では老中や若年寄大目付勘定奉行の不正を追及し処罰するまで田沼意次に追及させるなど隠れた名君との説もある。実際はどうだったのか、が描かれた小説。「極楽征夷大将軍」で描かれた足利尊氏を支えぬいた足利直義に通ずるものを大岡忠光に感じる。

 

 

 

極楽征夷大将軍 ⭐︎⭐︎⭐︎

鎌倉北条の増長、足利尊氏を支えた足利直義後鳥羽上皇の身勝手さ。あの時代にあってこれだけの非合理的な人情で歴史が動いたことが面白い。本著のおかげで冴えない一時代の印象があった室町幕府への印象が大きく変わった。なぜ室町幕府だけ関東ではなく京都に拠点を置いたのか、なぜ財政基盤が不確かだったのか。なぜ南北朝に皇統は分裂したのか。

 

 

木挽町の仇討ち ⭐︎⭐︎⭐︎

これぞ直木賞受賞作と感じられた人情時代小説。様々な登場人物の話から木挽町の仇討ちの真実が見えてきてそのどうにもならなさに悲しくなる。マー坊の一説で言葉通り泣いてしまった。あの職人のような気骨でありたい。これは実写化オファーがすでにされている気がする。しっかりと骨太に映画化できるならば映画も名作になりそう。

 

テスカトリポカ ⭐︎⭐︎

メキシコと日本を舞台にした濃厚なノワール小説。メキシコから新天地を目指した少女の物語かと思いきや急速に色褪せて生気を失い主人公の生い立ちを語る不幸な環境要因と化していくのが読んでいてしんどい。日本でアイヌ文化が消滅していった過程と似た足跡をアステカにも感じる。

 

ラブカは静かに弓を持つ ⭐︎⭐︎

JASRACヤマハ音楽学校を相手取って起こした訴訟を下敷きにした小説。実際にはJASRAC最高裁で敗訴したけれども作中では勝つ気配で描かれている。JASRACからヤマハ音楽学校に送り込まれたスパイが音楽に救われる光明を見るも真逆の結末へと突き進んでいく。読みごたえがあった。ラブカは醜い深海魚ではないと言いたい。

 

 

リカバリーカバヒコ ⭐︎

作者は青山美智子というこれまで読んだことの無い方だけれども、人気小説家の作風を強く感じる。さらっと読める短編集。

 

スピノザの診察室 ⭐︎

また新しい天才医師を主人公にした小説シリーズが生まれたように思う。

 

 

成瀬は天下をとりにいく

かつて滋賀県で働いていた身としては膳所や大津などの地名やできごとが溢れんばかりに出てくるだけで嬉しく懐かしくなる。しかし成瀬はいわゆる「十で神童、十五で才子、二十歳過ぎればただの人」のような描かれ方で終わってしまってやしないか。あれ、もうこれで終わりかというあっけなさ感が強い。大学生以降の破天荒な天才ぶりを描いてほしかった。次作を読めということか。どうにも鼻白むのはどこぞのアイドルや期待の新人女優で主演映画化されそうな商業臭を感じてしまうからなのか。

 

 

希望荘

惰性の続編になってしまってやいないだろうか。宮部みゆきに少しがっかりし始めた作品。

 

 

ペテロの葬列 ⭐︎⭐︎⭐︎

小説家は架空の世界で人を殺し、心を殺し不幸を生み出すことに想像力の限りを尽くす阿漕な人達だと改めて思う。小説の中で幸せよりも不幸を描く。暴力と妬みと憎しみと劣情を好んで描く。

自分の身の上に起きたらどんな気分になるのかを感づかせてくれたという意味では感謝したい。その日が全く働く気が起きないほど打ちのめしてくれた。人間不信になる。

 

 

名もなき毒 ⭐︎⭐︎

サイコパスな犯罪者を想像の世界に生み出す名手だな、宮部みゆきは。

 

 

誰か somebody

一代でコンツェルンを作り上げた財界の大物の妾腹の娘を娶った男を主人公にした小説。長く進展の遅い物語だが辛抱強く読み進めると後のシリーズ作「ペテロの葬列」でダメージが最大化される嗜虐的なシリーズ作。

 

 

嗤う淑女

ふたたび嗤う淑女

嗤う淑女 二人

 

可燃物 ⭐︎

荒木村重を主人公にした小説「黒牢城」が面白かったので読んでみた米澤穂信小説。卓越した捜査能力を持つ群馬県警の葛警部が難事件を解決していく刑事もの。私がかつて住んだ群馬の榛名や太田、伊香保温泉などが登場して親近感を持つ。

 
可燃物