「ザリガニの鳴くところ」☆☆☆
ディーリア・オーエンズ著
湿地の少女の人生。全く観たことのない世界が脳内に鮮やかに浮かぶ。親に兄弟に捨てられて湿地で孤独と戦いながら暮らす少女の話。ホワイトトラッシュ、黒人差別、アルファ雄の傲慢、美醜、保身。
暗示するような動植物の描写が豊か。
子を捨てる母狐
傷を負った仲間を攻撃する七面鳥
偽りの信号を送る蛍
交尾相手を貪り食うカマキリ
それらも善悪の判断など無用な拍動する命があるだけ。
ウクライナ戦争と米中対立 ☆☆☆☆
・ロシアは、プーチンは世界にはたった一握りの主権国家と残りは主権国家に隷属するその他の国しかないと見ており、日本を主権国家と見做してはいない。軍事面で米国に依存し自立して意思決定できないので主権国家の条件を満たしていないと見ている。
・多極化を目指しており相互干渉のないアメリカ圏、ロシア圏、中国圏、インド圏など複数の勢力圏を構築しウクライナなどの周辺国はどの陣営が獲るか駒でしかない。
・4年掛けてナチスドイツに勝ったロシアにとってウクライナへの時間軸は4年スパン。1ヶ月でキーウを電撃的に攻略できると思った誤謬はあるが消耗線で4年かければ欧米の支援は続かず攻略できるとも思っている。
・ロシア人の大半はロシアの復権とプーチンを支持している。旧共産主義国の民主化は米国の工作によるとの見方も根強い。
・露ウ戦争の日本にとっての一番の脅威は中国の台湾侵攻の呼水となること。
・習近平は3期目を延長したことを正当化できる成果を出さなければならない。共産党100周年も控えている。政敵を多く追放した習近平には自分を余る為にも大きな成果が必要となる。
・大国がピークアウトする前が危うい。中国はピークアウトが近く、その前に偉大な中華帝国の再興への行動に出る可能性も高まる。
・ロシアと違い中国は米国との非常時の直通連絡チャネルが少ない。誤解が軍事衝突にエスカレーションする可能性も高い。
・ウクライナに対して被害を最小化する為に早期降伏停戦を進める有識者が日本に多かった。
・尖閣諸島や台湾に侵攻された際に被害を最小化する為に中国に譲歩、降伏を唱える日本の有識者は多いと思われる。戦わずして負ける可能性も高い。台湾、沖縄と漸次侵食されうる。
・国連常任理事国が自ら「力による現状変更」に踏み切り、かつ国連決議に対して拒否権を持つ現状を直視する必要がある。政治と対話で解決などできない。
・ウクライナは自国軍で1ヶ月以上防衛したから西欧は支援した。安保協定があれど日本に自ら防衛する意志が示さなければそんな国を米国が支援するかは疑問。
読み終わって将来に対して暗くなる。侵略を防ぐ抑止力として軍事力は必要だと思うが日本の軍事組織と政治家がそれを適切に扱えるとも思えないジレンマ。
正欲 ☆☆☆ 朝井リョウ
・理解できる多様性は認めるが理解できない多様性は排除したいというその多様性への一定の許容度の押し付け。
・理解したい、理解するというマジョリティのマイノリティに対する上から目線。
・理解し合えること、理解し合うことを強要することが多様性ではなく、違いを理解しお互いに不干渉で尊重することも多様性ではないか。
性欲を満たすとなると犯罪になってしまうような特殊性向の人達を極端な例として置きながら世間のLGBTQや多様性の欺瞞を鋭くつく作品。
「同志少女よ、敵を撃て」☆☆ 逢坂冬馬
本屋大賞ということで読んでみた。アメリカでは女性はチアリーダー扱い、ドイツでは看護婦か戦争には不参加だが先進的なソ連では女性も志願兵として戦う。だから共産主義は先進的だと。しかし実際は戦後は男性兵以上に敵兵を殺害した女性狙撃兵への理解はなく居場所は失われたという話。
戦前の話と現在進行形の露ウで、民間人の殺害、レイプ、家財の強奪が行われている点で人類に80年の月日も進歩も感じられないことに驚く。イデオロギーや綺麗事を吐きながら双方が醜悪な蛮行に及んだ。ウクライナからも武器流用や着服などで私腹を肥やす政府高官が大勢明るみになりつつあり善対悪の構図はやはり夢想に過ぎなかった。双方で醜悪なドラマが繰り返される。
「墨のゆらめき」☆☆ 三浦しをん
書道と書道家の魅力にスポットライトをあてた娯楽作品。長袖の下着を身につけているというくだりで遠田の素性と展開がわかってしまったのが残念。もう少し展開の読めないワクワクを残して欲しかった。
三浦しをんさんの作品は自分の作風のウリだと思ってコミカルな描写が過ぎると吉本新喜劇的な誇張さがくどくなるように思う。
地平線を追いかけて満員電車を降りてみた ☆ 紀里谷和明
散々映画界に噛みついて批判し、「キャシャーン」「ゴエモン」そしてハリウッド進出して「ラストナイツ」で自ら監督した映画作品で本人も言うように惨敗した紀里谷さん。愚かな悩み人を複数作り上げ、ヒステリックな反応をする彼ら彼女らを上段から諭し啓蒙していく本人をモデルにした劇場支配人役が語る自己啓発本なのが総じてショックだった。結局のところ、わかりにくくした紀里谷和明の弁明と自己弁護、そして少しばかりの自慢のように思えてしまう。世間の評価なんてクソ喰らえ、自分の世に出したい表現を送り出せれば良いんだと本心から思っている人が本には思えない。全力を尽くしたならば肩書などいらないし結果などどうでもいいと言いながら映画監督としての自分、ハリウッド監督デビューをした自分を主張し興行的に惨敗したことには結果や世間の評価を気にしてはいけないとのたまう。映画界に上等切ってる最中の頃、私なんぞに力強く握手して挨拶してくれたカッコよい紀里谷さん。こんな大衆ウケする売れる自己啓発本なんてものは出して欲しくなかった。ここ最近、私の中で紀里谷和明に失望することが続いて残念だ。
また映画界に上等切って作品作るために資金稼ぎに薄っぺらい売れる自己啓発本を世に出しましたテヘペロという大局を見据えてのことであって欲しい。あと、本人が街頭に立って名刺をウン万枚配るのも配る枚数を増やすのもずれた努力だと思う。
若い女性が目を見張る美人ばかりだったり、なんだか映画化を見据えた設定を感じてしまう。あまり作者の入魂を感じない超売れっ子作家の量産複製品に感じてしまうのは気のせいか。膨大な下調べに基づいた世界観の膨らみのようなものには乏しい。知らない世界に誘ってほしい。
うのみにしすぎると中国ヘイトに誘導されすぎるように思う。対立を煽る言葉遣い。
しかしローマ帝国とオスマントルコを同一の国と見做さないように、殷、隋、唐、金、元、清など連続した「中国」と捉えがちなかつての王朝が北方民族の国、満州族の国、モンゴル人の国など異なる民族に取って代わられ、その度に大粛清や文化破壊が行われてきたことは意識や見方が変わる視点。
三国志が日本で人気なのは日本人好みに脚色し英雄のイメージに合わない虐殺や処刑、子殺し、統一後の腹心の粛清などを書かないからだというのはその通りだと思う。
中国の歴代王朝は周辺国が服従したら尊重して便宜を図る文化ではなく、大抵的に支配下に置くというのは忘れるべきではないことかもしれない。