最近の読書備忘録

「後悔病棟」垣谷美雨著 ☆☆☆

癌末期患者病棟に配属された人の気持ちが読めず問題ばかりを起こしている若い女医が心の声を聴ける聴診器を手に入れるところから話が始まるオムニバス4編。

仕事ばかりに励み、子供たちは見舞いに来るのも面倒くさそうなほどに心が離れており、妻とも共通の会話もない末期癌の男。芸能人の母親から夢を止められた娘。娘の結婚を反対してしまった母。さまざまな患者の後悔を通じて、人生に必要な真に価値のあるものはこういうことなのではないかと示唆してくれる小説。「世にも奇妙な物語」のような印象。

 

「ゼロからの資本論」斎藤l幸平 ☆☆☆

NISAなど国民が投資をして老後に備えることを促進する動きを、国民に投資家視線を持たせることで微かな配当などと引き換えに大企業優遇の政策が通りやすくするだけだと喝破する。中ソは共産主義ではなく単なる国家資本主義だと論じ、誤解されたマルクス主義を再度提唱する。行き過ぎた資本主義へのアンチテーゼを模索する姿勢は好きだ。

しかし著者の提唱する仕組みが悪意ある収奪者や怠け者への自浄作用を持つのかが疑問。人間は想像を絶する醜悪で強欲さも持つのだから。

 

「リバース」湊かなえ著 ☆☆☆

落ちが強烈に印象に残った。殺したのは。。

珈琲に上等なはちみつを入れて飲みたくなる。

 

もっと語りたいけれども未読の方の楽しみを奪いたくないので語れない良作。

 

「タクジョ」小野寺史宣著 ☆☆

タクシー業界の悲喜こもごもを知ることができるエンターテインメント小説。しかし別れる必要はあったのだろうか。

 

「あなたのゼイ肉、落とします」垣谷美雨著 ☆☆

落とすべきは、贅肉以前にその無用な先入観と固執した思い込みだ。

 

「面白くて眠れなくなる植物学」稲垣栄洋著 ☆☆

草が、とりわけイネ科のような株元から複数の葉を伸ばす種類が樹木や双子葉の草木に比して最も進化した類だそうだ。次の世代までの回転を高速化し最も効率よく速く葉を展開することで環境変化に最も適応できるようになっている。植物もスピードの世界となっているとは。

 

広葉樹は導管で根から使用までつながっており蒸散によって水を吸い上げる効率的で優れた仕組みを持っているが凍結したりして導管の水が断裂すると吸い上げられなくなってしまう。逆に針葉樹は細胞から細胞へ橋渡しするように水分を吸い上げていく旧式で成長にも非効率な仕組みを持つことが幸いして凍結する寒冷地で生き残ることができた。

 

紅葉は葉の付け根が断絶して栄養が供給されなくなっても光合成によって生成蓄積し続けた糖分アントシアニン葉緑素が壊れた後に発色するものだという。

などなどいろいろ興味深い話がてんこ盛り。

 

「老人ホテル」原田ひ香著 ☆☆

家計を管理せず、少ない給料のくせにコンビニでの買物が習慣化している情弱貧乏を立ち直らせる話を通じて、読者に対しても啓蒙しているような小説。ホテルの清掃員の業務縄張り争いなど、ホテル業界の裏側が垣間見えるのは興味深い。

 

「人間」又吉直樹著 ☆☆

「ハウス」での思い返すと恥ずかしさで川に身を投げたくなるような身悶えしそうな青臭さが心に残る。ナカノタイチへの罵倒は又吉の自己批判でもあり他者批判でもありそう。

長髪で芥川賞を受賞したお笑い芸人という設定の影島は読む人にこれは又吉本人のことだと思わせずにはいられない。その影島に語らせることは又吉の本音と解釈するのが当たり前だと思うが、まさか又吉は「あくまでフィクションであり小説」だとは言わないだろうな。

親父のエピソードのくだりなどはつながりがよくわからなかった。小説の体裁をまとった芥川賞受賞後の気持ちの吐露と太宰治人間失格ネタからそろそろ離れて欲しい。

 

「アナログ」ビートたけし著 ☆

映画になるのだろうな。語り口はうまいが、愛した人が事故にあって。。。なんて設定は陳腐な気もする。携帯電話を持たず連絡のとれない状況を「アナログ」というタイトルにすべきことなのだろうか。もっと様々なものをアナログに隠喩しているのかもしれないけれども深読みしたい話でもないような。

 

 

「未完の天才 南方熊楠」志村真幸著 ☆☆

驚異的な記憶力と行動力を持つ天才だったが完成させることへの執着のなさという軸から南方熊楠を取り上げる良著。

南方熊楠があれだけの粘菌の新種を発見できたのは王立図書館にアクセスできるツテを持っていたこと、粘菌がキノコと異なり保存して現物サンプルを郵送しやすいことなどがあることは知らなかった。

柳田邦男を論破して仲違いするエピソードなどが人間関係維持のために忖度して道理を曲げることなどしない天才らしい。

 

「未来」湊かなえ著 朗読のん ☆

のんの淡々とした朗読に好感の持てる小説。様々な登場人物からの視点で一つの物語が語られていく。自分の不幸は他人へ加害する理由にはならないことを強く主張しているように思う。

 

「今度生まれたら」内館牧子 ☆

それなりに才覚も見識もあり、適度に捻くれた内舘牧子のような人が自分ごととして老いや未練、執着と格闘している様が透けてくるような話。

 

「先祖探偵」新川帆立著 ☆